『サンデー毎日』に掲載
本とのふとした出会いで幼いころの自分を思い出す
幼いころ、絵画鑑賞が趣味だった母に連れられて、よく展覧会を訪れた。
「本物を見ることはいいことだ」と、ピカソやシャガール、ルノワールといった貴重な名画が日本にやってくると、母はその機会を逃さなかった。
「この中から欲しい絵をひとつ選びなさい」と、いつも母は僕に言った。
僕は母が与えてくれるその遊びがとても好きで、飾られている名画をくまなく、目を皿にして観て、これにしようか、あれにしようかと、腕を組んで悩んだ。そして、「これに決めた!」と言って、母の手を引っ張ってその名画の前に連れていき、なぜそれが気に入ったか自分なりに説明をした。
母はうんうんとうなずきながら僕の話を聞き、「いい絵を選んだわね」と言って、「ではその絵を買いましょう」と展覧会場の売店に行き、選んだ絵のポストカードを一枚買ってくれるのだった。
家に帰ると僕は、そのポストカードを、自分の部屋の壁に貼っては悦に入り、「いい絵だなあ」と、いっちょ前に言うのだった。
そんな記憶があるからか、いわゆる名画と言われている絵の値段と売買には昔から興味がある。世界には、本物の名画を買う人がいるんだという事実にわくわくするのだ。
だから、『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画』(髙橋芳郎)を、手に取った途端、面白くて時間を忘れて読みふけってしまった。
絵画ビジネスの舞台裏や、値段の決め方、それこそルノワールやピカソ、ゴッホにセザンヌといった画家たちの絵の行く末、そして、どんな画家の作品にもピンからキリがあり、どれもが高価ではないことなど、知る人ぞ知る話ばかり。
しかしながら、人はなぜ、何億円も出してまで絵を手に入れるのだろう。「値段」とは一体どうやって決められるのだろう。その答えのヒントが随所にちりばめられた一冊である。
「値段」で読み解く、という素晴らしいテーマに感服した。
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