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ゴッホの耳の謎に挑んだ女性が、7年かけて明らかにした衝撃の真実!

バーナデット・マーフィー『ゴッホの耳-天才画家最大の謎-』早川書房

ゴッホにまつわる最大の謎は「なぜ自分の耳を切ったのか?」でしょう。


あまりにも理解不能であるために、事件当日は一緒に住んでいたゴーギャンの犯行ではないかと疑われたほどです。


さらに深い謎は、「なぜ切った耳を知人女性に手渡したのか?」です。

現代の医学界では、ゴッホは「双極性障害」であったと考えられています。
「双極性障害」とは、以前は「そううつ病」と呼ばれていたように、気分が高まって活動的になる躁状態と、気分が落ち込んでふさぎこむ鬱状態を繰り返す病気です。


これがもう一つの謎「なぜ絵の評価が高まっていたときに突然に自殺したのか?」の答えにもつながります。
「双極性障害」では、鬱状態のときに突発的に自殺を図ることがあると言われています。
ゴッホが「双極性障害」だったのであれば、突然の自殺も不思議ではなくなります。


これらのゴッホの謎に挑んだイギリス人女性がいました。
彼女は学者ではありませんでしたが、健康上の理由で仕事を休職中の手すさびにゴッホの謎について調べ始めたところ止まらなくなり、その調査は7年にも及びました。


彼女が研究結果を書籍として出版したところ、たちまちベストセラーになりました。
その本のタイトルは『ゴッホの耳-天才画家最大の謎-』。
いったいどのような内容だったのでしょうか。

一般人女性が執念で発見した新事実とは?

ゴッホ《フェリックス・レー医師の肖像》1889年

ゴッホの耳切り落とし事件は、当時の新聞では次のように報道されました。


「先週の日曜日(1888年12月23日)の夜11時半ごろ、オランダ出身の画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが≪《一番娼館》を訪れ、ラシェルという女性を呼び出すと(中略)自分の耳を手渡し、『これを大切に取っておいてくれ』と言って去っていった。」


このとき何が起きたかを最もよく知っているのは同棲していたゴーギャンのはずですが、彼はこの日ゴッホと喧嘩して外出してホテルに泊まっていたのです。


ゴーギャンの証言も、時期によって違いはありますが、ゴッホが自分で耳を切ったことは確かなようです。


著者は当時の記録を調べるうちに、細かい証言の違いが気になります。

ある人はゴッホが切り取ったのは耳の一部だと言い、またある人は耳を全部切り落としたというのです。


これまでのゴッホ研究では、切り取られたのは耳たぶだけだとされてきました。
なにしろ、当のゴッホ自身や義理の妹のヨーがそう言っているのです。


しかし、著者は長い時間をかけて、当時のゴッホの主治医フェリックス・レー医師のスケッチを発見します。そこには、ゴッホが耳を付け根から切り落としたこと、ゴッホの顔には耳たぶの一部だけしか残っていなかったと明確に書かれていました。


本当はすっぱりと切り落としていたのです。
おそらく、ゴッホが耳切り事件を恥じて傷跡を誰にも見せないようにして、周囲には「一部だけを切った」と語っていたのではないでしょうか。


「そんなのはどっちでもかまわない」と考える人もいるかもしれませんが、長い間信じられてきた事実がくつがえったというだけでも、素晴らしい発見です。


このレー医師のスケッチは、ゴッホ財団にも認められて、アムステルダムのゴッホ美術館の企画展にも展示されました。

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ゴッホが耳を切った理由とは? 素人が調査した驚きの結果

ゴッホ《包帯をしてパイプをくわえた自画像》1889年

著者の第二の発見は、ゴッホの耳を手渡されたラシェルという女性の発見でした。
もちろんラシェルはもう生きていませんが、ラシェルの孫を見つけて会うことができたのです。


娼館にいる女性ということで、ラシェルは長いこと、ゴッホの顔なじみの娼婦だと考えられてきました。


しかし、著者は綿密な調査で、ラシェル=娼婦説を否定します。
彼女は娼館で働く掃除婦でした。


著者は、娼館で一生懸命働くラシェルにゴッホが恋をしていたのではないかと考えます。
ゴッホが自分の耳を手渡したのは、錯乱状態に陥っていたとはいえ、ゴッホなりの愛情表現だったというのです。


その推理が正しいかどうかは、本を読んで確かめてほしいと思います。

アルルの住民はゴッホを追い出そうとした?

ゴッホ《アルルの女(ジヌー夫人)》1888-1889年

さらに著者が気にしたのは、その後のゴッホに対して住民から出された請願書です。


「オランダ人の風景画家が、ここしばらくの間に何度も(中略)酒におぼれ、自分の言動もわからないほどの異常な興奮状態に陥っています。市民に対して何をするかわからず、近隣の住民、特に女性や子供が怯えています。(中略)家族のもとに直ちに送還するか、精神科病院への引き渡しに必要な手続きをお取りくださいますようお願い申し上げます」


この請願書に近隣の住民30名が署名をしています。


アルルの住民の冷たさを象徴するかのような請願書事件ですが、30名というのは署名としては少なすぎるし、署名の中には明らかに同一人物の筆跡が見られることから、少数の人物による陰謀ではなかったかと著者は考えます。


当時のアルルの住民を一人ひとりデータ化するような根気のいる調査の結果、著者は、ゴッホの住んでいた黄色い家の家主が、新しい店子を入れるためにゴッホを追い出そうと企んだのだと結論づけました。


その過程で、ゴッホが毎日食事をしていたカフェ・ドゥ・ラ・ガールの経営者ジヌー夫人など、ゴッホの親しい知人は請願書に署名をしていないことも明らかになりました。


ゴッホの死から130年近くが経過して、ようやくアルルの住民とゴッホの名誉回復ができたようです。

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デサップは若い頃、ゴッホの大ファンでした。
ゴッホに憧れて、アルルに移住したことまであるほどです。
当時デサップがゴッホになりきって描いた自画像は、画集『ギィ・デサップ: パリを描く現代の印象派』(パブリックブレイン)で見ることができます。



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