レコードジャケットで美術を学んだ奈良美智
~ラモーンズからマシュー・スウィートまで
週刊東洋経済2021年2月20日号「アートとお金」特集によれば、過去20年間で作品の相場価格が最も大きく上昇した日本人アーティストは奈良美智です。
この20年で奈良美智の作品の平均価格は106倍に高騰しました。これは過去30年で平均価格が72倍になった草間彌生をしのいでいます。
その奈良美智は、現代アーティストの中でも屈指の音楽好きとして知られています。
コミュニティFM「渋谷のラジオ」では、毎週日曜夜7時05分から2時間、自らの集めた音源を紹介する「渋谷 親父ロック部」のDJ(初代部長)として活躍していました。
現在も「奈良美智 の 真夜中のロック部」なるSNSアカウントを運営しています。
実は、奈良美智はかつて美術手帖で「10代の頃、僕はレコードジャケットで美術を学んだ」というタイトルの連載記事まで持っていました。
今回は2002年から2005年までのアートワークを紹介します。
ラモーンズへの愛情
『電撃バップ! ラモーンズ・トリビュート・アルバム』
(R and C Ltd.) 2002年
2002年に奈良美智が手掛けたのは、日本で発売されたオムニバスアルバム『電撃バップ! ラモーンズ・トリビュート・アルバム』のジャケットです。
これは、70年代ニューヨークに生まれた伝説のパンクバンド、ラモーンズの楽曲を、現代の日本のインディーズバンドたちが演奏したものを集めたアルバムです。
ラモーンズはシンプルでキャッチーなロックンロールを愛したグループで、多くの人にロックの魅力を伝えました。2002年にロックの殿堂入りもしています。
アルバムタイトルの『電撃バップ』は、ラモーンズのデビュー曲『Blitzkrieg Bop』の邦題です。
≪Johnny Ramone≫ 2016年
この曲の冒頭の「HEY! HO! LET’S GO!」の掛け声はラモーンズの代名詞になりました。奈良美智もこの掛け声を気に入っているのか、同名のタイトルの絵画を描いていて、絵の中に「HEY! HO! LET’S GO!」の掛け声をそのまま書き込んでいます。
実は、奈良美智にはロックミュージックの歌詞を書き込んだ作品がたくさんあります。それらを見るたびに、本当に彼は音楽が大好きなのだなと感じます。
このアルバムカバーの人物は、おそらくギタリストのジョニー・ラモーンをモデルにしたものだと思いますが、その特徴をよくとらえていて、奈良美智のラモーンズに対する愛情が伝わってきます。
ちなみにストリートアーティストのシェパード・フェアリーの描いたジョニー・ラモーンと比較すると、作風の違いがよくわかります。どちらも素敵ですね。
パンクからジャズまでが守備範囲
(Winter & Winter) 2002年
奈良美智のジャケットワークは、インディーズのギターバンドが多いのですが、次に紹介するジム・ブラックは正規の音楽教育を受けたジャズドラマーです。
2000年にドラム、ギター、ベース、クラリネット(サックス)の4人編成のジャズバンドAlasNoAxis(ああ軸がない)でデビューしました。
ジャズとはいえ、前衛的なロックにも通じるような実験的な音楽性は、ジム・ブラックをインディーズミュージック界隈での人気者に押し上げました。
ジム・ブラックはAlasNoAxisとして6枚のアルバムをリリースしました。そのうち2枚目『SPLAY』(スプレー)と、5枚目の『HOUSEPLANT』では、奈良美智をアートワークに起用しています。
(Winter & Winter) 2009年
日本のサブカル・ポップもフォロー
(バップ) 2002年
奈良美智といえば少女の絵が有名です。
その絵によく合っているアーティストが大正九年です。
大正九年は、作曲家・渡邊一重のソロユニットで、シーケンサーやシンセサイザーで作った音楽をバックにユニークな世界観を一人で歌っています。
インディーズのライブハウスで活動していた彼女のメジャーデビューアルバム『KYU-BOX.』は、2002年に奈良美智の素敵なアルバムジャケットとともに発売になりました。
ラストの曲「ネットで叩いてやる!」は、サブカル少女のアイドルだった筋肉少女帯の大槻ケンヂとのコラボレーションです。
大正九年は体調不良でしばらく音楽活動を休止していましたが、2017年に10年ぶりにシングル曲をリリースして健在を印象付けました。
(カッティング・エッジ) 2003年
さらに2003年に奈良美智は、インディーズ系ロックミュージシャン、マシュー・スウィートの日本企画アルバム『キミがスキ・ライフ』のジャケット・デザインに起用されました。
マシュー・スウィートはアニメ『うる星やつら』のヒロイン、ラムちゃんの刺青を腕に入れているほどの日本好きで、9枚目のアルバム『キミがスキ・ライフ』は日本のレコード会社エイベックスからの発売となりました。
ちなみに英語版のタイトルは『Kimi Ga Suki * Raifu』です。LifeではなくRaifuであるところに、日本好きのこだわりが感じられます。
『私は私、このまんまなの~プレヴェールのうた』
(ユニバーサル) 2004年
2004年の奈良美智は、やはり日本企画のオムニバス・アルバム『私は私、このまんまなの~プレヴェールのうた』のジャケットを描きました。
このアルバムはフランスの詩人ジャック・プレヴェールが作詞したシャンソンを26曲集めたもので、イヴ・モンタンやジュリエット・グレコ、エディット・ピアフ、ミシェル・アルノーなど10人の有名シャンソン歌手の録音を収録したオムニバスです。
ちなみに、選曲と解説と歌詞の翻訳を担当したのはアニメ映画『火垂るの墓』や『かぐや姫の物語』などで知られるスタジオ・ジブリの高畑勲監督でした。高畑監督はプレヴェールの大ファンなのです。
アヴァンギャルドもお手の物
(Ipecac) 2005年
奈良美智はさらに2005年に、アヴァンギャルドメタルバンド、ファントマスの4枚目のアルバム『サスペンデッド・アニメーション』のアートワークを担当しました。
ファントマスは、オルタナティブ・ロックバンドのフェイス・ノー・モアのボーカリストだったマイク・パットンが結成した前衛ロックバンドです。
1~2分程度の短い曲を30曲並べたアルバムは、まるで実験音楽の万華鏡のようで、聴く人を飽きさせません。
奈良美智はこのアルバムの限定版に30ページのイラスト入りミニカレンダーを提供しました。
2005年4月に発売されたこのアルバムは、全30曲のタイトルも、「2005年4月1日金曜日」から「2005年4月30日土曜日」まで無機質に並んだもので、そこに奈良美智が描いた2005年4月の日めくりカレンダーがおまけとして付いていました。
『Cloudy, Later Fine』
(O-Chang BEAT) 2005年
2005年は3年に1度開催される横浜トリエンナーレの年でもありました。
この年の横浜トリエンナーレに参加した奈良美智は、ドイツ在住時代から旧知のバンド「チキチキバンブース」を招いてライブを行ってもらいました。
「チキチキバンブース」は、ドイツ在住の日本人を中心に結成されたサーフロック・バンドです。
メンバーは日本人のミヤジ・チキとノリコ・バンブース、そしてドイツ人のマヌ・チキの3人です。ミヤジ・チキとノリコ・バンブースは、もともとドイツの日本人バンド「東京ピカドンズ」のメンバーでした。しかし公式設定では「日本とハワイの間に位置するジャワイ島からやってきた無国籍バンド」となっています。
チキチキバンブースのミニアルバム『Cloudy, Later Fine』のジャケット画は、奈良美智が横浜トリエンナーレに出品した女の子の絵です。このアルバムは横浜トリエンナーレでのライブとその後に続く日本ツアーを記念して発売されました。
奈良美智と音楽とのかかわりあいの深さがよくわかります。
2010年代後半以降の奈良美智のジャケット・アートはこちら>>
奈良美智のbloodthirsty butchersのジャケット・アートはこちら>>
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