奈良美智の音楽レコードと価格レコード
~bloodthirsty butchersとのかかわり
いま最も売れている日本人アーティストといえば奈良美智です。
彼の作品のオークションでの高額落札記録(レコード)は、2019年にサザビーズ香港で落札された絵画《Knife Behind Back》の約27億円です。
次点は2021年にフィリップス香港で落札された《Missing in Action》の約15億円。
3位は2020年に同じくフィリップス香港で落札された《Hot House Doll》の約14億円。
2021年上半期の奈良美智のオークション売上の88%は香港からもたらされています。
このように、奈良美智の作品は日本国外でも多くの人に愛されています。言葉はわからなくても、作品によって喚起される感情が万国共通だからでしょう。
音楽好きで知られる奈良美智ですが、音楽は聴覚に、絵画は視覚にダイレクトに訴えて国境を越えていくことができるため、通じるものがあるのでしょう。
今は亡きブラッドサースティ・ブッチャーズ
(日本コロムビア)2005年
奈良美智が最も多くのジャケットアートを手掛けたバンドは、日本のbloodthirsty butchers(血に飢えた屠殺者)です。
1986年に北海道の高校の同窓生3人で結成されたbloodthirsty butchersは、玄人受けのするミュージシャンズ・ミュージシャンでした。
奈良美智が最初にジャケットを手掛けたのは2005年発売の9枚目のアルバム『banging the drum』でした。
元ナンバーガールのギタリストを加えて4人編成になったバンドの充実した楽曲が、奈良美智のアートワークで飾られています。
bloodthirsty butchersは海外のオルタナティブ系バンドからの評価も高く、アメリカツアーもたびたび行っています。
この年にはアメリカのインディーズバンドのプラスマイナスと共同でアルバム『bloodthirsty butchers vs. +/-』もリリースしました。
お互いの楽曲をカヴァーしあった変則的なアルバムです。このジャケットも奈良美智によって彩られました。
さらに2007年にリリースされたbloodthirsty butchers 10枚目のアルバム『ギタリストを殺さないで』のディスクジャケットにも奈良美智が起用されました。
メジャーレーベルの日本コロムビアとの契約が切れたために、アルバムは自主レーベルの391toneから発売されました。
オムニバス『bloodthirsty butchers vs. +/-』
(日本コロムビア)2005年
bloodthirsty butchers『ギタリストを殺さないで』
(391tone)2007年
4枚のトリビュート・アルバムで死者を悼む
この後、しばらくアルバムリリースから遠ざかったbloodthirsty butchersですが、キングレコードと契約して、2010年に11枚目のアルバム『NO ALBUM 無題』を発売しました。
そして2013年、12枚目のアルバム『youth(青春)』がbloodthirsty butchersの遺作となりました。
ボーカリストでありソングライターであった吉村秀樹が46歳で突然、急性心不全で逝去してしまったからです。
吉村秀樹の死で活動を停止せざるを得なくなったbloodthirsty butchersですが、その音楽を愛する人は数多く、翌2014年に4枚のトリビュート・アルバムが発売になりました。
参加アーティストはASIAN KUNG-FU GENERATION、ロマンポルシェ、怒髪天、BRAHMANなど錚々たる面子で、少年ナイフ、あがた森魚、八田ケンヂなど奈良美智がジャケットを担当したアーティストも多数参加しています。
4枚のアルバムは、追悼の意を込めたものか、すべて白を基調にした奈良美智の絵で占められました。
奈良美智はbloodthirsty butchersで計7枚のジャケットアートを手掛けたことになります。
オムニバス『Yes,We Love butchers
~ Tribute to bloodthirsty butchers ~“Abandoned Puppy”』
(日本クラウン)2014年
オムニバス『Yes, We Love butchers
~ Tribute to bloodthirsty butchers ~ “Mumps”』
(日本クラウン)2014年
オムニバス『Yes,We Love butchers
~ Tribute to bloodthirsty butchers ~ “Night Walking”』
(日本クラウン)2014年
オムニバス『Yes,We Love butchers
~ Tribute to bloodthirsty butchers ~“The Last Match”』
(日本クラウン)2014年
奈良美智とロックミュージック
(Island Records)2002年(サンプルCD)
2008年のresist写真塾のインタビュー「不確かな感情」で、奈良美智は次のように語っています。
「何か言葉だけでは表せない衝動みたいなものがロックミュージックの音にはすごくあって、それが向こうでバアンとダムが決壊して、感情が洪水みたいに僕のほうへ押し寄せてくるんだよね」
1970年代末、商業化したロックミュージックに対して、シンプルなコードでノイジーなギターをかきならすバンドが多数生まれました。
それらのバンドは、当初はパンク(ちんぴら)とかニューウェイブ(新しい波)と呼ばれ、やがてオルタナティブ・ロック(もう一つのロック)と命名されるインディーズの潮流を作りだします。ブラッドサースティ・ブッチャーズも、その流れを汲んでいます。
産業化したポップミュージックを良しとせず、衝動的な音や前衛的な音楽を志向するオルタナティブ・ロックの精神は、世間の評価を気にせずに作品を作り続ける多くの現代アートに通じています。
翠波画廊専属作家のハンス・イヌメも、若い頃はオルタナティブ・ロックバンドで演奏するミュージシャンでした。
レコードコレクターとしても知られる奈良美智のジャケットワークの多くは、オルタナティブ系の音楽に対してのもので、オルタナティブ系ミュージシャンの代表であるニルヴァーナのカート・コバーンなど、ミュージシャンを描いた作品も数多くあります。
奈良美智の作品が世界的に人気を集めているのは、このようなグローバルな時代精神と共鳴しているからかもしれません。
2010年代後半以降の奈良美智のジャケット・アートはこちら>>
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