村上隆が描いたCDジャケット
~ゆずとカニエ・ウェストとの蜜月
日本の現代アートといえば、村上隆、奈良美智、草間彌生の3人の名前がすぐにあがってくるでしょう。
子どもの頃から好きだったアニメと、東京藝大で学んだアートとを組み合わせた作品を発表していた村上隆の名前が一躍知れ渡ったのは2008年のことです。
村上隆の制作した、エロティックなアニメ風キャラクターの等身大彫刻≪My Lonesome Cowboy≫(マイ・ロンサム・カウボーイ)が、日本人作家の作品としては過去最高額の1516万ドル(約16億円)で落札されたからです。
この記録は、2019年に奈良美智の絵画≪Knife behind back≫(ナイフ・ビハインド・バック)の落札(約27億円)で塗り替えられるまで10年以上も輝き続けました。
今回は、村上隆が手掛けたレコードジャケットの特集です。
早くから村上隆に目をつけたゆず
オークションでの記録的落札が話題になった2008年以前から、村上隆は日本の現代アートシーンでよく知られた存在でした。
ともすればワビサビと言って暗く沈んだトーンになりがちな日本美術界の中で、若手とはいえ、アニメを意識したポップでカラフルな作風は目立っていました。
2002年には村上隆の絵が、フォークソングデュオのゆずの4枚目のアルバム『ユズモア』のジャケットデザインと、アルバムからのシングル曲『アゲイン2』のミュージックビデオに起用されています。
ゆず「アゲイン2」Music Video
同じ年には、映画『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』の主題歌に選ばれたゆずのシングル曲『またあえる日まで』のアートワークも担当しました。
ゆずという人気スターを前面に押し出してはいるものの、村上隆の絵も脇役ながら驚くほどの存在感を放っています。
現代アート界随一の戦略家として知られる村上隆は、自分が考案した花のキャラクターを使うことで、村上隆自身のブランディングも同時におこなっているかのようです。
通常、ミュージシャンとアーティストのコラボレーションはアルバム1枚と、それに伴ういくつかのシングル曲だけで終わるものです。
アルバムごとに異なるテイストを打ち出したいミュージシャンは、同じアーティストを使うことで、前と同じように見られるのを避けたいからです。
しかし、ゆずは2年後の6枚目のアルバム『1~ONE~』で、再び村上隆をアートワークに起用しました。よほど気に入られたのでしょう。
翌年に発売された、ゆずの初めてのベストアルバム『Home [1997-2000]』と『Going [2001-2005]』の2枚も村上隆がジャケットデザインを担当しました。
アート作品では時にエログロも辞さない村上隆ですが、CDジャケットのようなコマーシャルワークではクライアントの意向に沿うかのように、さわやかな面を強調しています。
作風が異なっていても、村上隆が手掛けたことがわかるようになっているのがさすがです。
ゆず『Home [1997-2000]』
トイズファクトリー(2005)村上隆
ゆず『Going [2001-2005]』
トイズファクトリー(2005)村上隆
現代アート好きのカニエ・ウェストに見初められる
やがて村上隆の名前は国内にとどまらず海外にも広まっていきました。
そんな村上隆を次に起用したのが、現代アート好きとして有名なヒップホップアーティストのカニエ・ウェストです。
Kanye West『Graduation』
Roc-a-Fella(2007)村上隆
2007年のアルバム『グラデュエーション』と、そこからカットされた5枚のシングル曲のアートワークは、すべて村上隆の手によるものとなりました。
カニエ・ウェストは、音楽ファンではない日本人にはなじみのない名前かもしれませんが、アメリカではプロデュースする曲のすべてがヒットするナンバーワンアーティストで、グラミー賞を20回以上も受賞したレジェンドです。
当然『グラデュエーション』も大ヒットとなり、シングル曲『ストロンガー』はアメリカ国内で500万枚以上も売れました。
カニエ・ウェストの曲とともに、村上隆のアートワークも全米に広まりました。
漢字で「蟹江西」と書いてみたり、カタカナで「カニエ・ウェスト」と記してみたり、遊び心満載のジャケットは、日本人アーティスト村上隆の面目躍如となりました。
Kanye West『Can’t Tell Me Nothing』
Roc-a-Fella(2007)村上隆
Kanye West『Stronger』
Roc-a-Fella(2007)村上隆
Kanye West『Good Life (featuring T-Pain)』
Roc-a-Fella(2007)村上隆
Kanye West『Flashing Lights (featuring Dwele)』
Roc-a-Fella(2007)村上隆
Roc-a-Fella(2008)村上隆
ちなみに、カニエ・ウェストは『グラデュエーション』の次のアルバムではカウズを起用し、その次のアルバムではジョージ・コンドにアートワークを任せました。
超富裕層のセレブであるカニエ・ウェストは、現代アートのコレクターとしても有名です。
近年のカニエ・ウェストは、2024年の大統領選挙への出馬を表明して騒がれました。
4年後のことなのでどうなるかはわかりませんが、アメリカでは元俳優のロナルド・レーガンや不動産王のドナルド・トランプが大統領になっていますから、ミュージシャン出身の大統領の誕生も十分にありえるでしょう。
ミュージシャンに合わせて作風を変える対応力
カニエ・ウェストとのコラボレーションを終えた村上隆が、次に受けたオファーは、あの秋元康がプロデュースする国民的アイドルグループAKB48のアートワークです。
2005年に結成されたAKB48は、CDを買うと中に封入された握手券や人気投票券が手に入ることで、社会現象ともいえる人気を巻き起こしました。熱心なファンが同じCDを何枚も買うことでCDの売上も上々でした。
村上隆がジャケットデザインを手掛けた2009年は、ちょうどその人気がうなぎのぼりだった頃です。
村上隆は着実に人気者とコラボレーションを重ねていきました。
やんちゃなイメージのカニエ・ウェストのジャケットとは作風がまったく異なりますが、その違いが、逆に批評性を感じさせます。
その後、しばらくコマーシャルワークから離れていた村上隆ですが、2013年のゆずの11枚目のアルバム『LAND』で、久しぶりにジャケットデザインに復帰します。
近年は、鬼や妖怪を描くことの多い村上隆は、ゆずのアルバムジャケットでも、サーカスの芸人など異形の者たちを登場させました。
村上隆といえば、いまだにアニメ調の絵が代表作であると思っている人も多いのですが、アーティストは常に変化や進化し続けるものです。
村上隆、名和晃平、東信
ゆずのデビュー20周年を記念したオールタイムベストアルバムのジャケットでは、デビュー当時からのゆずのマスコットキャラクター・ゆず太郎を、これまでにゆずとコラボレートしてきた3人のアーティストがそれぞれにリミックスする表現手法がとられました。
ジャケットの真ん中にいる黄色いオリジナルのゆず太郎に対して、右端が村上隆のゆず太郎、左端が彫刻家・名和晃平のゆず太郎、左から二番目がフラワーアーティスト東信(あずままこと)のゆず太郎です。
村上隆のゆず太郎はフォルムにしか原型をとどめていません。逆に彫刻家の名和晃平は、フォルムは崩しましたが目鼻立ちなどのテクスチャーはそのままです。
Good Music(2018)村上隆
続けて2018年には、カニエ・ウェストとキッド・カディの2人によるユニット「Kids See Ghosts」(子供たちは幽霊を見る)のアルバムジャケットをデザインしました。
今回は、アニメではなく日本画の村上隆で、幽霊のような妖怪のような生きものが描かれています。
ぱっと見ではいわゆる村上隆っぽくはないものの、よく見ると左側には、村上隆バージョンのゆず太郎のような、丸い顔をした妖怪が描かれていて、それとわかります。
さらに2019年には、まだ10代の才能あふれるシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュの『you should see me in a crown』のミュージックビデオの監督をしています。
ビリー・アイリッシュはこの曲を含むデビューアルバムで、2020年のグラミー賞主要4部門すべてを独占受賞しました。これは1981年のクリストファー・クロス以来、39年ぶり史上2人目の快挙でした。
Billie Eilish – you should see me in a crown (Official Video By Takashi Murakami)
2020年現在、村上隆によるアートジャケットの最新作は、J・バルヴィンの7枚目のアルバム『コロレス』です。コロレスとは、スペイン語でカラーズ(色)を意味します。
J・バルヴィンは南米コロンビアのシンガーソングライターで、スペイン語で歌っているのにもかかわらず、アメリカのヒットチャートで1位に輝いた人気ミュージシャンです。
スペイン語のレゲエやラップと、ラテン系のサルサ音楽などが組み合わさった、レゲトンと呼ばれる音楽を得意としていて、ラテン系アーティストとしては例外的にグローバルな人気を獲得しました。
人気者とあれば村上隆の出番です。カラフルでポップな初期の村上隆の作風で彩られた『コロレス』は、南米にまで村上隆の名を広めるかもしれません。
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