昔は絵画も安かった?
~ルネサンスの画家は芸術家(アーティスト)ではなく職人(アルティザン)だった
著名な芸術家の描いた絵と無名の画家の描いた絵には価格に大きな差があるからです。観光地で売っている風景画や木彫りなどの工芸品と、美術館に収蔵される芸術品との価格を比べてみればわかるでしょう。
例えば15世紀、初期ルネッサンスの画家ウッチェロが、フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に描いた壁画には、材料費や手間賃を含めた制作費として15フロリンが支払われました。当時の15フロリンは、比較的良い住居の年間家賃に相当するので、現在でいえば200万円くらいでしょうか。壁画の制作には、弟子を使って何カ月もかかることを考えれば、それほど高額とはいえません。 17世紀オランダでは、中産階級の興隆に伴い、絵画を取り扱う画商が生まれました。これらの画商は、しばしば画家を雇用して、商品としての絵画を制作しています。雇用された画家の賃金は、例えばアムステルダムの画商クレッツァーの場合、休日なし諸手当込みで年間1200ギルダー、アントヴェルペンの画商フロケットの場合は、食事と住居付きで年間123ギルダーとなっています。当時の1ギルダーは、現在でいえば1万円くらいになるでしょうか。サラリーマンと同じような年収です。 余談ですが、今をときめくフェルメールは、この17世紀オランダの画家ですが、当時は主に画商として生計を立てていました。フェルメールの死後、彼の絵画がまとめてオークション(売り立て)にかけられた際には、1枚あたり28~200ギルダーの価格がついたそうです。当時の相場価格ですが、現在から考えると安いですね。
フェルメール「デルフトの眺望」200ギルダー
もちろん、有名な画家の場合はそれなりの価格になります。
レンブラント「夜警」1,600ギルダー
同じ頃、17世紀スペインでは、絵画はいまだ王侯貴族の嗜好品で、画家の地位はあまり高くありませんでした。
ベラスケス「女官たち」 中央のマルガリータ王女と、左端の画家ベラスケスが並んでいる。
このように絵画の値段は、その作品を良いと思う人の数、所有したいと思う人の数に比例して上がってきました。 しかし最近の現代美術は、欲しいと思う人の数がそれほど多くないのに、価格が高騰していると感じます。
参考文献:高階秀爾『芸術のパトロンたち』(岩波新書)
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