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絵画の著作権はいつまで続くのか?
~2018年から著作権保護期間は死後70年に延長されました

かつてゴッホとルノワールの名画を購入した日本人実業家が「自分が死んだら一緒に焼いてほしい」と冗談で口走って非難を浴びたことがありました。
文化財は人類共通の財産であり、絵画もそこに含まれますから、名画を所有したからといって故意に傷つければひんしゅくを買いますし、故意でなくとも文化が損なわれないように、保管には気を配る必要があります。
また、私的所有物だからといって、勝手に画像を使用することはできません。というのも、絵画にも著作権があって、著作者に許可をとらずに不特定多数に公開することが禁止されているからです。
とはいえ、著作権は永遠に続くものではありません。たとえば500年以上前に描かれた「モナリザ」であれば、著作権者もいなくなっていますから、そのイメージは真に人類共通の財産になります。では、利用の可否の境目はどこにあるのでしょうか?

 

著作権は作者の死後70年+αにわたって保護される

一般に、著作権の保護期間は、著作者の死亡後70年間です。通常は、著作者が死亡していれば著作権もなくなるような気がしますが、配偶者や子どもなど、その著作権を利用したい身近な遺族もいますから、死亡後70年間は著作権が保護されるのです。このように、著作権を持つ者を著作権者と呼びます。これは著作者とは似て非なる概念です。
たまに勘違いされますが、作品の発表後70年ではなく、著作者の死後70年ですから注意が必要です。


では、著作者の死後70年を経た絵画は自由に使って良いのかといえば、例外もあります。というのも、日本は戦争期間中に連合国民の著作権を保護していなかったと言われているため、戦時加算があって、連合国民の著作物については著作権の保護期間が伸びている可能性があるからです。

その加算日数は、例えば相手がイギリスやフランスやアメリカ、つまり連合国の国民であった場合、戦争期間として3794日間(およそ10年半)になります。
簡単に言えば、日本人画家の作品であれば死後70年間で自由に使えるようになりますが、フランス人画家の作品であれば、死後80年半は、著作権者の許可なしに勝手に使うことはできないということです。


たとえば、葛飾北斎が亡くなったのは1849年です。ということは翌年の1月1日を起算日として、死後70年を加算した1919年12月31日で著作権の保護期間が切れたことになります。なので、2023年現在、葛飾北斎の絵を掲載しても、著作権侵害にはならないでしょう。
しかし、1958年に亡くなったフランスの画家ルオーの場合は異なります。ルオーの著作権の保護期間が切れるのは、翌年の1月1日を起算日として80年と5か月後ですから2039年5月です。ですから2023年現在はまだ、ルオーの絵を勝手に使うことはできません。

著作権の保護期間が過ぎていても使用には注意が必要

ところで、仮に著作権が切れた絵画があったとして、使う画像はどこから取ってきたらよいでしょうか。というのも、絵を画像にするには写真で撮る必要がありますが、場合によっては写真家にも著作権が発生するからです。
基本的に、絵をそのまま画像化した写真は、単なる複写であって創造性が関与していないので、著作権の対象になることはありません。しかし額縁が入っていたり、斜めに角度をつけていたり、クリエイティブな加工が加わっていたりすると、その限りではありません。加工した人の著作権が発生するので、その人の著作権が消滅するまで、勝手に使うことができません。

ちなみに、この著作権には使用の例外があります。その一つが論文などに引用する場合です。論文は人類共通の知的財産となるため、正当な引用の範囲内であれば、著作権者の許諾を得ることなく公表された著作物を使用することができるのです。これは公共の益に供するための措置と言えるでしょう。ただし、正当な引用とするためには「出典の明示」、「公正な慣行に合致」など、いくつかの条件があるので留意してください。


また、私たちのように絵を商品として扱う画廊の場合は、いちいち著作権者の許諾を得ずとも、商品として所有している絵画の画像を顧客に向けて公開することが慣行的に認められています。ただし、慣習として認められているのは、あくまでも見本として小さなサムネイル画像を見せることです。高画質の画像を掲載すると、観賞用ではないかと咎められる危険性があります。


また、著作権保護期間が切れたといっても、それはあくまでも法律上のことで遺族の感情に配慮するに越したことはありません。そのため遺族との良好な関係を保つことを求める公立美術館などは著作権の保護期間の有無にかかわらず遺族や財団などに許可を求めることが多いです。


実際のところ、「著作権」の保護期間が切れたとしても、作品を管理する財団や作品を所有する美術館などが「商標」や「所有権」、「著作者人格権」を持っていることがあります。作家の名誉を著しく傷つけるような利用だったり、目に余るほどの不正利用であった場合には、それらの権利を持つ団体からクレームがつくことがあります。特に商用に利用する場合は気をつけましょう。

 

藤田嗣治の著作権をめぐる裁判

このような絵画の著作権をめぐって、かつて裁判が行われました。その経緯は以下の通りです。
1979年、小学館は美術全集『原色現代日本の美術』を刊行にあたって、藤田嗣治の絵を掲載したいと、著作権者である藤田嗣治の未亡人に許諾をお願いしました。藤田嗣治が亡くなったのは1968年なので、当時はまだ著作権の保護期間内であったためです。
ところが著作権者である君代夫人は、使用を許可しませんでした。どうやら、藤田嗣治が日本を追われた経緯から、日本の美術界に対して含むところがあったようなのです。
やむをえず小学館は「モンパルナスの日本人」という論文の引用というかたちで、藤田嗣治の絵を掲載することにしました。これに対して、君代夫人は「著作権侵害」だとして訴訟を起こしたのです。
1984年の地裁判決は、君代夫人の言い分を支持して「著作権侵害」を認定しました。小学館はただちに控訴しましたが、1985年の高裁判決も一審と同じでした。掲載画像が大きく、読者の鑑賞の対象となりうることから、「引用」にとどまらないと解釈されたのです。掲載に至るまでの事情も考慮されたうえでの判決でしょう。
なかなか厳しい判決ですが、それくらい著作権者はきちんと守られているのだと理解できます。

 

かつては50年だった著作権保護期間

日本では、2018年12月30日に改正著作権法が施行されるまで、著作権の保護期間は死後50年間でした。
この日以前に著作権の保護期間が切れた作家については、さかのぼって保護期間が70年に延長されることはありません。
ざっくりといえば1957年以前に亡くなった海外の作家、および1967年以前に亡くなった日本の作家の場合は著作権保護の対象外となります(例外もあります)。
たとえば1958年に亡くなった横山大観は、没後70年の2029年ではなく、没後50年の2009年に著作権保護がなくなりパブリックドメインとなっています。
海外の作家でいえば、ローランサンやマティスやマルケやデュフィはぎりぎり保護期間が切れましたが、1958年に亡くなったルオーやヴラマンクは20年延長の恩恵を受けて2039年半ばまで保護されたままになります。

参考文献
公益社団法人著作権情報センター
大島一洋,2006,『芸術とスキャンダルの間――戦後美術事件史』講談社

 

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