マネ《草上の昼食》の衝撃!
タブーを破った裸婦画が引き起こしたスキャンダルと革命
(ブロンズ新社)2006
アニメにもなったフランスの人気絵本シリーズ『リサとガスパール』をご存じですか?
イヌのようなウサギのような白と黒の2人の生き物、リサとガスパールのパリでの日常を描いたほっこりストーリーです。
2010年にはCG映画『リサとガスパール -とびきりキュートなパリの住人-』が日本で劇場公開されました。
作者のアン・グットマン、ゲオルグ・ハンスレーベン夫妻は、青いコアラのキャラクター「ペネロペ」でも有名です。
『リサとガスパール』も『うっかりペネロペ』も、子どもでも楽しめるシリーズですが、西洋絵画の教養があればもっと楽しむことができます。
リサとガスパールも西洋名画
日本でシリーズ20冊目として刊行された『リサとガスパールのピクニック』の表紙を見てください。
赤いマフラーをした白い女の子リサと、青いマフラーをした黒い男の子ガスパールと、もう一人の友人が仲良く森でピクニックをしています。
一見、ありふれた絵に見えますが、西洋絵画に詳しい人はこの構図の元ネタに気づくでしょう。
実はこの表紙絵は、マネの有名絵画《草上の昼食》からの引用なのです。
マネ《草上の昼食》は、1863年にフランスのサロン(官展)に出品され、物議を醸しました。それは生身の女性の裸があからさまに描かれていたからです。
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神様の裸はOKだけど人間はNG
もちろん、それまでの絵画にも女性の裸は描かれていましたが、それまでの裸は、人間ではなく女神の理想の身体を賛美するという名目で許されていました。
たとえば、マネが《草上の昼食》を描くきっかけになったルネサンスの名画《田園の奏楽》も、着衣の男性2人の団欒とその横にたたずむ裸の女性2人を描いた作品です。
しかし、《田園の奏楽》に描かれた女性は人間ではなく女神なので問題にはなりませんでした。人間の男性2人には女神の姿が見えないために視線もそちらに向かず、女神たちも恥じらうことなく無邪気にたたずんでいます。
《草上の昼食》はブルジョワの遊びだった?
一方、マネ《草上の昼食》に描かれたのは俗世の人間たちのピクニックです。
男性だけが服を着ていることから、当時のパリに当たり前のように存在していた、お金で買う娼婦との戯れを描いた一コマだと推測できます。
男性と女性の視線が画家の方に向いているのも、現代で言うなら「カメラ目線」、つまりモデルがポージングしているものと考えられます。
左下に描かれた脱ぎ捨てられた服は、女性が現実の存在であることを強調しています。
また、男性2人に服を着せたことで、娼婦を裸にして愛でながら昼食を楽しむ傲慢さが浮かび上がってしまいました。
マネはなぜ《草上の昼食》を描いたのか?
マネの《草上の昼食》が物議を醸したのは、それまで許されていた女神のヌード(nude)ではなく、人間の女性の裸(naked)を描いたと見なされたからでした。
神聖な芸術を冒涜する行為だと受け止められたのです。
では、マネは《草上の昼食》を画壇への挑発行為として描いたのでしょうか。
マネの意図はよくわかっていませんが、単なるアジテートではなく、一枚の絵として鑑賞に堪えうるように制作したのではないかと考えられています。
《草上の昼食》の構図のもとになったのはイタリア・ルネサンスの画家ラファエロの《パリスの審判》です。
巨大な《パリスの審判》の絵の一部分に、《草上の昼食》とまったく同じ構図が見られます。
しかし《パリスの審判》では3人ともが肉体美を強調した全裸の男性であったのに、《草上の昼食》では全裸の女性と服を着た男性2人に描き換えられました。そのためにいっそう鑑賞の対象として女性の裸が強調されることになったのです。
批判を浴びたがゆえに名を残したマネ
印象派展に一度も参加しなかったマネが「印象派の父」と呼ばれる理由は、芸術の神聖性を信じていた当時の美術界の人々に比べて、現実を見る進歩的な目を持っていたからです。
現実の世界には女神はおらず、逆に娼婦はそこら中にいて、しばしばたるんだ身体を持っていました。 しかし理想を描く芸術に親しんでいた人々にとって、現実をそのまま写し取ることは、たいへん攻撃的な行為に感じられたのです。
現在ですら、売春婦と遊ぶエグゼクティブを描いて官展や二科展に出品することは挑発的だと見なされるでしょう。
マネの《草上の昼食》は「不道徳」な絵と目されて、その年のサロンには落選します。
しかし、サロンの落選作品を集めた落選展が民間のギャラリーで開催され、《草上の昼食》は多くの人の目に触れて話題になりました。もちろんそのほとんどは批判でした。
男性社会では、女性は私有財産である
《草上の昼食》が描いたのは、多くの人が隠したがっている欲望でした。
アメリカの文学研究者、イヴ・セジウィックは1985年の著作『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望―』で、男性は女性を財産として交換し合うことで絆を深めて男社会を成立させていると指摘しました。
その本の表紙にはマネの《草上の昼食》の絵が使われました。ピクニックをするときに裸の女性を目の保養のために連れ歩く男性たちは、まさに彼女の理論に合致していたからでしょう。
イヴ・K・セジウィック『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望―』名古屋大学出版会
Eve Kosofsky Sedgwick『Between Men: English Literature and Male Homosocial Desire』Columbia University Press
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