いまオークションで売れている絵画
~2019年9月21日の上海クリスティーズから
印象派、現代アート、ストリートアート……絵画には流行がありますが、人気画家の作品はいつの時代も高額で取引されます。
今年2019年4月には、ストリートアーティストのバンクシーの絵画≪Keep it Real≫が約4500万円で落札されました。2001年にバンクシーの個展で売られたときの価格は約2万円でしたから、18年間で2250倍に値上がりした計算になります。
また5月には、印象派の画家モネの絵画≪積み藁≫が約121億円で落札されました。すでに評価の確立したモネの作品は、前述のバンクシー作品の約270倍の価格になります。
さらに6月には、イタリアのバロック画家カラヴァッジオの作品≪ホロフェルネスの首を斬るユディト≫がフランスで新たに見つかり、オークションにかけられる予定でしたが、競売予定日の2日前に突然売買が成立したことがニュースになりました。
買い手や取引価格は秘密にされていますが、オークション会社の見積価格だった120~180億円程度で売却されたと見られています。
いまオークションではどのような絵が売れているのか、最新の情報をお届けします。
人気上昇中のアジアの画家たち
いま勢いのあるアート市場といえば中国。なかでも上海は富裕層が集まり、熱狂的なオークションが開催されています。
例えば2019年9月21日、上海のクリスティーズで行われたイブニングオークションでは、なんと出品された30作品のうち29作品が高額で落札され、落札総額は20億円を超えました。1点あたりの平均額は約7000万円になります。
どのような作品が落札されたのか、金額の高いほうから見ていきましょう。
第1位は、中国の画家ザオ・ウーキー(趙無極)の≪銀河(Voie Lactée)09.11.1956≫で、約8億5000万円でした。 高さが1.62メートルの大作で、抽象画の大家ザオ・ウーキーらしい美しい絵画です。
やはり中国のオークションでは、中国人画家の人気が高まります。と言っても、ザオ・ウーキーは27歳でパリに移住し、以降24年間、一度も中国に戻らなかったと言われるグローバルな画家です。日本でいえば藤田嗣治のような人です。
1921年生まれのザオ・ウーキーは、元永定正やサム・フランシスと同世代です。43歳でフランスの市民権を獲得し、56歳でフランス人女性と3度目の結婚をして、2013年に93歳でなくなりました。
≪銀河(Voie Lactée)09.11.1956≫は、2004年の香港のオークションでは約6000万円で落札されたものです。 それが15年後の2019年の上海のオークションでは、約8億5000万円と、14倍にまでなりました。この価格は、上海クリスティーズのオークション落札価格の最高記録になったそうです。
藤田嗣治と同じく、アジアとヨーロッパの両方の感覚を持つザオ・ウーキーは世界市場で高く評価されていて、2018年には抽象画≪1985年6月-10月≫が、香港サザビーズにて約74億円で落札されています。この価格はアジア人アーティストの油彩画の最高価格として知られています。
第2位は、日本の現代アーティスト奈良美智と杉戸洋のコラボレーション絵画≪箱暮らし(Living in the box)≫で、落札価格は約1億2000万円です。
箱の中から、よく知られた奈良美智の描く釣り目のアジアの女の子が顔をのぞかせている作品です。
70センチメートル四方のこの絵は、出品された中では唯一の日本人画家の作品となりました。
奈良美智の人気については今さら言うまでもないでしょう。杉戸洋も若手画家として注目されています。
二人は、杉戸洋(1970年生まれ)が高校生のときに通った美術予備校で、奈良美智(1959年生まれ)から絵を習って以来、30年近いつきあいになります。
1997年に初めて合作を行い、二人展を開催しました。以来、しばしば二人で共同制作を行っています。「シャギーン」というユニット名で活動することもあります。
ちなみに、2019年10月6日の香港サザビーズのオークションでは、奈良美智の作品≪背後のナイフ(Knife Behind Back)≫が約27億円で落札されました。
これは同氏のオークション落札価格の最高額になるばかりではなく、草間彌生や藤田嗣治や村上隆を抜いて、日本人作家によるアート作品の最高価格となりました。
根強い人気を誇る近代絵画の画家たち
第3位は、シュルレアリスムの作風で知られるサルバドール・ダリの彫刻作品≪時間のプロフィール≫で、落札価格は約1億1600万円でした。
奈良美智×杉戸洋の価格にはわずかに届きませんでしたが、彫刻作品なのにここまでの高額になったことは驚きです。
この作品はダリの代表的なモチーフである、チーズのように溶けた懐中時計を、ブロンズの彫刻で再現したものです。高さが3.8メートルに及ぶ大きな彫刻です。
チーズのように溶けた懐中時計は、ダリの名作≪記憶の固執≫に登場します。ダリは絵画≪記憶の固執≫を元に、彫刻を3つ作りました。
第4位は、マルク・シャガールの≪フルーツバスケットと恋人たち≫で、落札価格は約8150万円でした。
1887年生まれのシャガールは、97歳になった1985年まで生きた長命な画家でした。この作品はシャガールの晩年、1980年頃の作品と見られています。全盛期の作品であればもっ高値がついたのでしょうが、晩年の作品でもこれだけの価格になるところは、さすがシャガールです。
前述のダリが亡くなったのは1989年で、シャガールとは4年しか違いませんから、この2人の画家は明らかに同時代人ではありますが、実際には二人の年齢差は17歳もあって、出身地域も大きく異なることから、ほとんど交流はなかったと考えられています。
これから評価の高まる近現代の画家たち
第5位は、アメリカのポップアートの画家アレックス・カッツ≪ジェニファーとマシュー≫で、約7600万円で落札されました。>
アレックス・カッツは1927年生まれの画家で、2019年現在も92歳で存命です。翠波画廊取扱い作家で言えば、加山又造、今井俊満、そしてアンディ・ウォーホルと同世代です。
ウォーホルがポップアート運動をしていた頃、アレックス・カッツの名声はなかなか上がりませんでした。カッツは最初の10年間に1000枚の絵を描いては捨て、描いては破って、自身の技量を高めることに費やしました。
カッツが世界のアート市場で認められるようになったのは70歳を超えてからです。今回落札された作品も1986年、69歳のときの作品でした。アレックス・カッツの評価は今後も高くなることでしょう。
第6位は、第二次世界大戦後のフランスの代表的な画家ベルナール・ビュッフェ≪ピエロとコーヒーカップ≫で、約6890万円で落札されました。
ビュッフェのよく描いたピエロが、頭の上にコーヒーカップを3つ重ねてバランスをとっている、ユーモアのある絵です。
1928年生まれのベルナール・ビュッフェは、アレックス・カッツと同世代です。しかし、カッツとは異なり、ビュッフェは20歳の頃から天才画家として大人気でした。
しかし、あまりにも若くから有名になってしまったために、中年になってからは孤独やマンネリズムに苦しめられました。
40代でフランス最高の栄誉であるレジオン・ドヌール勲章を受章したものの、60代からはパーキンソン病に悩まされ、71歳で自らの命を絶ってしまいました。
ビュッフェの内面を反映するその作品は今でも長く愛されています。
高額取引絵画ランキング・トップ15(2019年11月現在)
1. ダ・ヴィンチ≪サルバトール・ムンディ≫2017年、約4億5000万ドル(オークション)
2. デ・クーニング≪インターチェンジ≫2015年、約3億ドル(個人間取引)
3. セザンヌ≪カード遊びをする人々≫2011年、約2億5000万ドル(個人間取引)
4. ゴーギャン≪いつ結婚するの?≫2014年、約2億1000万ドル(個人間取引)
5. ポロック≪Number 17A≫2015年、約2億ドル(個人間取引)
6. ロスコ≪No.6≫2014年、約1億8600万ドル(個人間取引)
7. クリムト≪水蛇Ⅱ≫2013年、約1億8400万ドル(個人間取引)
8. レンブラント≪マールテン・ソールマンスとオーペン・コーピットの肖像≫(2枚1組)2015年、約1億8000万ドル(個人間取引)
9. ピカソ≪アルジェの女たち(バージョンO)≫2015年、約1億7900万ドル(オークション)
10. モディリアーニ≪横たわる裸婦≫2015年、約1億7000万ドル(オークション)
11.リキテンスタイン≪マスターピース≫2017年、約1億6500万ドル(個人間取引)
12. モディリアーニ≪(左向きに)横たわる裸婦≫2018年、約1億5720万ドル(オークション)
13.ピカソ≪夢≫2013年、1億5500万ドル(個人間取引)
14.クリムト≪アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅱ≫2016年、約1億5000万ドル(個人間取引)
15.カラヴァッジオ≪ホロフェルネスの首を斬るユディト≫2019年、推定約1億4500万ドル(個人間取引)NEW!
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