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フランスの新星ワンマイザー
~バンクシーやウォーホルを大胆に引用するスタイル

フランスのストリートアーティストのワンマイザー。
彼の作風は、古今東西のアーティストの作品やポップアイコンを引用するもので、見る人の心にそれにまつわるさまざまな感情を呼び起こします。
2021年時点で32歳とかなり若手に属するワンマイザーは現代のポップカルチャーの影響を色濃く受けている新世代のアーティストです。
今回はワンマイザーの魅力を探ってみましょう。

バンクシー VS ウォーホル

ワンマイザー
《バンクシー VS ウォーホル》

ストリートアーティストに分類されることも多いワンマイザーの特徴は、キャンバスではなく木材に描く独自性と、人物や風景ではなく文字やキャラクターを描く尖鋭性です。
ワンマイザーが描くのは、PEACE(平和)やROCK(ロック)やFREE(自由)といった街の落書きめいたグラフィティと、誰もが知っているようなポップアイコンやアートの名作の組み合わせです。
たとえば《バンクシー VS ウォーホル》では、バンクシーの名作《Keep it Spotless》(点をお掃除)と、ウォーホルの名作レコードジャケット《The Velvet Underground and Nico》とを組み合わせて、バナナをめくるメイドを描きました。

バンクシー&ダミアン・ハースト
《Keep it Spotless》2007年

《Keep it Spotless》は2008年にサザビーズにて約2億円で落札されて以来、2019年までの11年間、バンクシー作品の落札価格トップをキープしてきた作品です。
《Keep it Spotless》の評価が高くなった理由は、現代アートの俊英ダミアン・ハーストとのコラボレーション作品だからです。
2008年当時、バンクシーはストリートアートの旗手として名前をあげつつありましたが、アート界のエスタブリッシュメントの間ではまだ評価が定まっていませんでした。
しかし、ダミアン・ハーストの特徴的なスポットと、自身の代表作である《Sweep It Under The Carpet》(カーペットの下に刷きだせ)のメイドとを組み合わせる妙技で、アート界の顧客をうならせて評価を高めました。

アンディ・ウォーホル
『The Velvet Underground & Nico』1967年

バンクシー《Keep it Spotless》をさらにパロディ化したのが、ワンマイザー《バンクシー VS ウォーホル》です。
この絵に使われたウォーホルのバナナは、もともとレコードジャケットとして制作されたものです。オリジナル盤ではバナナの皮はシールとなっていて、めくると男性器を象徴するかのような肌色のバナナの身が登場する仕掛けでした。
ワンマイザーはバンクシーのメイドにウォーホルのバナナをめくらせることで、オリジナルの両作品を換骨奪胎しています。


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ゴッホ VS バットマン

ワンマイザー
《星空の下のバットマン》

ワンマイザーが引用するアイコンは、バンクシーをはじめとして、アニメや漫画のキャラクターなど現代カルチャーを象徴するものが多いのですが、そのなかにちょくちょく名画を入れてくるあたりが、現代アートの文脈を踏まえていて心憎いです。
《星空の下のバットマン》もその一枚で、言わずと知れたゴッホの名作《星月夜》に、アメリカンコミック『バットマン』に出てくるバット・シグナルを配置する手腕が見事です。 ゴッホ《星月夜》が有名なのは、曲がりくねった雲や糸杉などの異様な迫力もありますが、自らの耳を切り取って精神病院に入院させられそうになったゴッホの狂気をイメージさせるところがあるからでしょう。

ゴッホ《星月夜》
1889年

英語では「狂気」をlunacy、「気の狂った」をlunaticと言いますが、これはローマ神話で月の女神であるルナを語源としています。
ヨーロッパ中世には、月の光を浴びすぎると発狂するという迷信があり、そこから狼男伝説が生まれるほど、月と狂気は結びついています。
青い夜空に煌々と輝く月がゴッホの狂気をイメージさせるので、《星月夜》がゴッホの代表作になったのではないでしょうか。

バット・シグナル
(ノートブック)

ワンマイザー《星空の下のバットマン》では、夜空にさらにバット・シグナルを浮かび上がらせます。
バット・シグナルとは、劇中でゴッサム・シティに悪党が出現して、バットマンの助けを呼びたいときに出す合図です。強力なサーチライトを雲に投影してコウモリのかたちを映し出すもので、街のどこからでも見ることができるためにバットマンへのシグナルとして機能しています。
実はこの絵の中にもバットマンがいて、バット・シグナルを見上げているのですが、どこにいるのかわかるでしょうか?

ワンマイザーが引用するキャラクターは多彩です。
ディズニー映画のミッキーマウス、『怪盗グルーの月泥棒』のミニオンズ、『マダガスカル』のペンギンズ、アニメ番組『シンプソンズ』や『スポンジ・ボブ』のキャラクター、『わんぱくデニス』、『ラッキー・ルーク』などの海外マンガ、『スーパーマン』、『スパイダーマン』などのアメリカンコミック、『ジュラシック・パーク』、『E.T.』などのハリウッド映画、『ドラゴンボール』、『スーパーマリオ』などの日本製コンテンツ、アートでいえば、葛飾北斎、ムンク、マグリット、ピカソ、キース・ヘリングなども定番となっています。
ストリートアート界の期待の星ワンマイザーの、今後の進化が楽しみです。

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