『アートのお値段』映画に見る芸術作品の価値
~ジェフ・クーンズとゲルハルト・リヒターの違い
ドキュメンタリー映画『アートのお値段』は、挑発的なタイトルで視聴者にいくつもの問いを投げかけています。
アート作品は、本当に何千万円、何億円もの価値があるのか?
なぜ、ある作品が10万円で、別の作品が1000万円という差がつくのか?
そして、そのお金を手に入れているのは誰なのか?
アートは誰のものか
左上がジェフ・クーンズ
『アートのお値段』にはさまざまな立場の人が出てきます。
まず、ジェフ・クーンズやゲルハルト・リヒターといった、今をときめく人気アーティストたち。
それから、ラリー・プーンズやマリリン・ミンターといった、有名ではないが専業で生活しているアーティストたち。
次に、メアリー・ブーンやジェフリー・ダイチといった画商(ギャラリスト)。 画商がいなければ、アーティストの作品は流通しません。
これらの画商たちは、ギャラリー・オーナーとしてアーティストと連携してプライマリー・マーケットを築いていますが、 コレクターからコレクターへの販売を意味するセカンダリー・マーケットを仲介する画商たちもいます。 エイミー・カペラッツォやシモン・デ・プリといったオークション関係者は、映画の中で異様な存在感を持ちます。
作る人と売る人がいれば、買う人も必要です。 ステファン・エドリスやゲール・ニーソンといったコレクターは、アート作品の魅力を語ります。
さらに、美術批評家(クリティック)、美術館の学芸員(キュレーター)、コンサルタントといった面々も、 それぞれの立場からアートの価格について物申します。
『アートのお値段』の原題は『The Price of Everything(すべての値段)』です。
すべてというのが何を指すのかは明確にされていませんが、アート作品を作り上げるのにかかるコスト、それを売るのにかかるコスト、 そして多くの関係者の思惑などのすべてが、価格形成にかかわっていることを示唆しているかのようです。
ラリー・プーンズの反骨精神
≪Sinjerli Variation Squared with Colored Ground 1A≫
映画の中でも特にフォーカスされているのが、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)とラリー・プーンズ(Larry Poons)の二人のアーティストです。
生きているアーティストの中で最も稼ぐと言われているジェフ・クーンズと、日本ではほとんど知られていないラリー・プーンズ。 対照的なこの二人のアーティストが似ているのは名前だけであるかのようです。
実はラリー・プーンズは、1960年代にはオプ・アートの旗手として、レオ・キャステリ画廊と契約し、ドナルド・ジャッドやクレス・オルデンバーグと並び称される人気者でした。当時の彼の作品は、ジャスパー・ジョーンズと同じ値段で売られていたといいます。
しかし、あるとき、プーンズは高く評価されていたドット絵を描くことに飽きてしまいます。 そしてまったく新しい絵を描き始めたのですが、周囲は猛反対しました。 せっかくドット絵のプーンズというブランドが確立したのに、それを無視したからです。
プーンズの売り出しに熱心だった画商も、同じ芸術運動のグループと目されていた仲間も、プーンズの行為を裏切りと感じました。 応援してくれたのはフランク・ステラだけだったそうです。
当時をふりかえってプーンズはこう語ります。
「同じような絵を描き続ける画家にはなりたくなかった。もっと進化したかった。金のために絵を描き続けていたら死んでいた。 私は自分の可能性をひらくために描いている」
プーンズに対する評価はさまざまです。批評家は次のように語ります。
「プーンズは自分のマーケットを破壊するのが得意ね。しかも定期的に。 それでも最近はまた人気が出てきた。『最も過小評価されている画家』として、売りだしている人たちがいるから」
ここで「売り出している人たち」として揶揄されたのがオークション関係者です。 なぜクーンズの作品は高価なのに、プーンズの作品はそうでもないのかと聞かれて、彼らはこう答えます。
「教科書的に言えば、需要と供給の関係だ。欲しい人が多くいるから高くなる。 でも本当のことを言えば、関係者に金銭的なうまみがあるかないかだ。 高値になることで利益を得られる人が多ければ、高値が維持される」
ラリー・プーンズは1937年に東京で生まれたという、日本人に親しみのある経歴を持っています。 当初は音楽家を目指して、ボストンのニューイングランド音楽院で作曲を学びましたが、 バーネット・ニューマンの展覧会を見て画家に転向して美術学校に入学しました。
映画の最後に、プーンズはギターの弾き語りを披露してくれます。
「売れている絵は人生の反対側にある」と歌うプーンズは、生き方そのものがアートといえるかもしれません。
ジェフ・クーンズのマーケティングのうまさ
≪Balloon Dog≫
清貧なプーンズと対比されてしまったクーンズですが、彼もまたお金のために制作をしているわけではありません。 クーンズは語ります。
「私が作品をつくる理由はただ一つ、自分がそれに関心を持っているからです」
とはいえ、クーンズの作品は非常に計算されていて、見た目のキャッチーさと明確なコンセプトが同居しています。 たとえば、ゲイジング・ボールと題されたシリーズは、巨匠の名作を模写して、その前にピカピカの鏡面仕上げの球体を設置したものです。 球体に丸い形で反射して映る名作と、同時に映り込んでいる鑑賞者自身とを眺めるものです。
名作を自宅に飾りたいけど、模写を持つのは恥ずかしいというコレクター心理と、そのような自意識の馬鹿馬鹿しさを、 球体に映る自分を眺めることで気付かせるというコンセプトも秀逸ですし、 結果としてお気に入りの名作の模写を現代アートの一部として自宅に飾ることができるというお客様心理も巧みについています。
2013年(ジェフ・クーンズによるアートワーク)
ちなみに、名作の模写を行っているのはジェフ・クーンズの工房のメンバーです。 クーンズは作品の制作にあたって自分の手を動かすことはありません。 それでも、クーンズは「私自身が描いている」と主張します。
「作品に使う色はすべて私が番号で細かく指定しているので、私自身が私の指に指示して描いているのと同じことです」> このような独創的な発想こそ、クーンズをクーンズ足らしめているものでしょう。
彫刻作品を制作する際も(もちろん工房のメンバーに作らせます)、作品は唯一無二の一品ものが望ましいという常識を排して、 同じものを4つの色で制作して売り出します。しかし、これがコレクター心理を刺激して、飛ぶように売れるのです。
3年後に制作する作品を購入する権利を売り出すというのもクーンズのアイデアです。 入手するのに時間がかかればかかるほど、お客様の中には作品を楽しみにする気持ちとその作品に対する愛情が高まり、結果として価値を高からしめるのです。
存命作家の作品の中で最も高額で取引された有名なクーンズの彫刻作品≪Rabbit≫や≪Balloon Dog≫は、風船の動物を鏡面仕上げの金属で制作したものです。
もしかすると、アート作品の中身は空っぽの空気で、そこに投影されているのは見る人の姿だけというメッセージが隠されているのかもしれません。
(次回へ続く)
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