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絵本「ケイティのふしぎ美術館」シリーズ
~モネの絵の中に入ってみたら?

イギリスの絵本作家ジェイムズ・メイヒューによる絵本シリーズ「ケイティのふしぎ美術館」をご存じでしょうか?
幼児のケイティが、子守りをしてくれる祖母と一緒に美術館(ミュージアム)に出かけて、そこで迷子になり、展示してある名画の中に入ってしまうお話しです。
日本でも人気で、現在までに翻訳が10巻刊行されています。
今回は、この「ケイティのふしぎ美術館」シリーズから、印象派の画家をとりあげた1冊をご紹介しましょう。

『ケイティとひまわりのたね』

「ケイティのふしぎ美術館」シリーズは、イギリス本国での発刊の順番と、日本での翻訳の順番が異なります。
イギリスで最初の1冊となった『ケイティのはじめての美術館』は、日本ではシリーズ7巻目として翻訳されました。
おそらく、イギリスと日本でうけるものが違うと考えられたからでしょう。
読者の目にふれる最初の1巻はとても重要で、もし販売があまりうまくいかなかったとしたら続巻の刊行が難しくなります。
推測ですが、日本の出版社はよく考えた末に、刊行する最初の1冊に『ケイティとひまわりのたね』を選びました。
日本の美術館にもあって、オークションでの落札時には史上最高額と騒がれたほどに知名度の高いゴッホ≪ひまわり≫であれば、読者の興味をひけると考えたのでしょう。
もちろん、この本の中でケイティが絵の中に入ってしまった≪ひまわり≫は、日本のSOMPO美術館のものではなく、ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵の絵です。
さて≪ひまわり≫の中に入ってしまったケイティは、どうやってそこから脱出するのでしょうか?

ジェイムズ・メイヒュー
『ケイティとひまわりのたね』
(サイエンティスト社)

ゴッホ≪ひまわり≫
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

『ケイティとモナリザのひみつ』

続く2巻でケイティが入ってしまったのは、あの有名な≪モナリザ≫です。
1巻でケイティは、ゴッホだけでなくゴーギャンやセザンヌなど後期印象派の画家の絵の中に迷い込んでしまいました。
2巻では、ダ・ヴィンチ≪モナリザ≫の他に、ラファエロ、ボッティチェリ、カルパッチョなどイタリア・ルネサンスの画家たちの絵に入ってしまいます。
絵に描かれている人たちと実際に話ができるなんて、素敵なことですね。
この巻では、謎の微笑みを浮かべるモナリザの秘密が、彼女自身の口から明かされます。

ジェイムズ・メイヒュー
『ケイティとモナリザのひみつ』
(サイエンティスト社)

ダ・ヴィンチ≪モナリザ≫
ルーヴル美術館(パリ)

『ケイティと花たばのプレゼント』

そして3巻目に満を持して登場するのが、翠波画廊でも取り扱っているモネ、ルノワール、ドガといった印象派の画家たちです。
1~3巻は2011年3月に同時発売されたもので、3巻といっても読者にとっては最初の1冊になるかもしれません。
出版社は、日本の読者に最も喜ばれそうなのが、ゴッホ≪ひまわり≫、ダ・ヴィンチ≪モナリザ≫、そして印象派絵画の3つだと判断したのでしょう。
ちなみに、日本語版のタイトルは『ケイティと花たばのプレゼント』ですが、イギリス版の原題は『Katie Meets The Impressionists』(ケイティ、印象派に出会う)で、もっと直接的にテーマに触れています。
数ある印象派の絵画の中で、表紙に選ばれたのはパリのオルセー美術館所蔵のモネ≪ひなげし≫です。

ジェイムズ・メイヒュー
『ケイティと花たばのプレゼント』
(サイエンティスト社)

モネ≪ひなげし≫
オルセー美術館(パリ)


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モネ≪庭の昼食≫
オルセー美術館(パリ)

絵の中に入り込んだケイティは毎回、幼児特有の物怖じ知らずで、絵の中に出てくる人とお話しします。ジェイムズ・メイヒューが描くそれらの人々の活き活きとした表情も、この絵本の魅力の一つです。
たとえば、モネ≪庭の昼食≫には、天気の良い日に着飾って昼食を楽しむ婦人たちが出てきます(絵の後方に描かれています)。

James Mayhew『Katie Meets The Impressionists』
(英語版)より

この絵がジェイムズ・メイヒューの筆にかかると、こんな風に変わります。
赤い服を着ているのがケイティです。
その隣にいる青い服の男の子はモネの長男のジャンです。
右端にいる日傘をさした婦人はモネの妻のカミーユでしょう。隣の女性は服装などからメイドだと思われます。

モネ≪散歩、日傘をさす女性≫
ナショナル・ギャラリー・オブ・アート
(ワシントン)

ジャンとカミーユの服装は、本の中には出てこない別のモネの絵≪散歩、日傘をさす女性≫が参考にされているのでしょう。
≪散歩、日傘をさす女性≫は、めったに人物画を描かなかったモネが、愛妻のカミーユと長男のジャンをモデルに描いた名作です。
絵本の中には出てこない絵画にまできちんと注意を払っているところに、モネに対する作者の愛情がうかがわれます。

1冊の絵本の中でケイティは5枚くらいの絵の中に入り込みます。 この本の中に出てくる残り3枚の絵は次のとおりです。

ルノワール
≪ジョウロをもつ少女≫
ナショナル・ギャラリー・オブ・アート
(ワシントン)

ルノワール
≪初めてのおでかけ≫
ナショナル・ギャラリー
(ロンドン)

ドガ
≪青い踊り子たち≫
オルセー美術館
(パリ)

「ケイティのふしぎ美術館」シリーズは、大人のアートファンが読んでも楽しい絵本です。ぜひ手に取ってみてください。

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