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エコール・ド・パリのモデルになった歌姫
~藤田嗣治が描いたシュジー・ソリドール

20世紀の前半、パリが文化の中心地としてヨーロッパに名を馳せていた頃、世界中から多くの芸術家がパリのモンパルナスやモンマルトルに集まりました。
作家に画家に音楽家に彫刻家、作風も出身地も異なる彼らを総称して、エコール・ド・パリ(パリ派)と呼びます。
このエコール・ド・パリの画家のモデルとして有名だった女性シャンソン歌手がいます。226人もの画家が彼女の美貌に魅かれて肖像画を描きました。
彼女をモデルとしたのは、パブロ・ピカソ、藤田嗣治、マリー・ローランサン、モイズ・キスリング、ジョルジュ・ブラック、ジャン・コクトー、ラウル・デュフィ、キース・ヴァン・ドンゲン、タマラ・ド・レンピッカ、マン・レイ、フランシス・ベーコンなど――当時の名立たる芸術家が勢ぞろいしています。
いったい、どのような女性だったのでしょうか。

 

世界でいちばん肖像画の多い女性とは?

藤田嗣治
≪シュジー・ソリドールの肖像≫
1927年

世界一多くの肖像画に描かれた女性は、フランスの歌手シュジー・ソリドールです。
シュジーは1900年、つまり19世紀の終わりの年に北フランスのブルターニュの港町サン=マロで私生児として生まれました。
実の父は海賊として財を成した資産家の一族と言われますが、父親に認知されなかったシュジーは母子家庭で育ちました。
7歳のとき母親が別の男性と結婚したので、シュジーは大人になるとパリに出て一人暮らしを始めます。
そのときに名乗った姓は、故郷サン=マロの海辺に建つソリドール塔からとりました。

タマラ・ド・レンピッカ
≪シュジー・ソリドールの肖像≫ 1933年

パリで彼女が見つけた働き口は、美術商が経営するアンティークショップの売り子でした。この店の女主人イヴォンヌは有名なレズビアンで、シュジーを恋人として可愛がり、店に出入りする画家にシュジーの肖像画を何枚も描かせました。
教養あふれる美術商や芸術家との交際で磨かれたシュジーは、やがて男性の恋人を作ってイヴォンヌと別れ、夜の店で人気歌手になります。
29歳のときには、パリの日本人街に「La Vie Parisienne」(パリ娘の人生)という名前のキャバレーをオープンするほどの成功を収めました。店の売りは彼女の生歌です。

モイズ・キスリング
≪シュジー・ソリドール≫ 1934年

美貌と美声を誇るシュジーの店には多くの画家が集まり、彼女にモデルになってほしいと頼み込みました。
シュジーは完成した絵を彼女の店に飾ることを条件に、モデルを引き受けました。
多くの画家が、彼女の絵を描くことを名誉に感じ、肖像画を描いて彼女に贈呈しました。数多くの自画像に囲まれて、彼女は夜の街で歌い続けました。
中でも有名な作品が、バイセクシュアルとして知られた女性画家レンピッカの筆によるものです。
レンピッカは絵を描く条件としてヌードを要求し、シュジーはそれを受け入れて服を脱ぎました。

フランシス・ピカビア
≪シュジー・ソリドール≫ 1935年

シュジー・ソリドールの人生

藤田嗣治とシュジー・ソリドール、
ドーヴィルの海岸(1928年)

いくつかのレコードを出して映画にも出演するようになったシュジーですが、その後は時代の波に翻弄されます。
1940年、ナチス・ドイツによってパリが占領されました。
多くの芸術家が国外に逃げるなか、シュジーは店の切り盛りを続けました。
ドイツ軍将校のご贔屓となったシュジーは、1941年にドイツの流行歌「リリー・マルレーン」のフランス語バージョンを歌ってレコードにします。
しかし、1944年に連合軍によってパリが解放され、ナチス・ドイツの敗戦が決定的になると、シュジーはナチス協力者として訴追され有罪となり、公民権を剥奪されました。

Suzy Solidor
『Les Belles Années Du Music-Hall N° 39』
Pathé(1965年)

シュジーはめげることなく、数年後に南フランスのカーニュ・シュル・メールに移住すると、再びキャバレーを開き、自らの肖像画を飾って、歌い続けました。
カーニュ・シュル・メールは、晩年のルノワールが自宅を構えたところとしても有名です。郊外のコレットの丘に建てられたルノワールの家は、現在はルノワール美術館として多くの観光客を集めています。
一方、シュジーが店を開いたのは、オー・ド・カーニュと呼ばれる街の中心地でした。
有名人であるシュジーの店には再び芸術家が訪れるようになり、彼女の肖像画も増え続けました。

1983年に亡くなるこの街で過ごしたシュジーは、晩年に200枚を超える肖像画の中からお気に入りの40点を選んで、地元の美術館に寄贈しました。
そのため、グリマルディ城を改装して作られた地中海近代美術館には、今もシュジーの肖像画だけを集めた展示室があるそうです。
20世紀初頭の時代に、自立した女性として力強く生きたシュジー・ソリドールの人生は、当時、多くの芸術家が惹きつけられたのと同様、今も多くの人を魅了してやみません。

 

 4月17日〜9月5日まで、箱根のポーラ美術館では、藤田嗣治の旅とそれにともなう色彩の変遷に焦点を当てた「フジタ ― 色彩への旅」展を開催しています。新しく収蔵された3作品が公開されているそうです。  翠波画廊でも4月12日~24日まで、藤田嗣治作品展を開催しています。新規入荷作品が多数ございますので、お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。

 

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