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オークションの模様が楽しめる映画2選
~オークションに参加するか、開催するか

名画の価格が次々と競りあがっていく緊迫のオークション会場。
今回はそんなオークションの雰囲気が味わえる映画を選んでみました。
最初の1本は、オークションに参加して落札を狙う立場から描いたものです。
もう1本は、オークションを仕切って落札のハンマーを振り下ろす立場から見てみます。
どのような光景や人間模様が展開されているのでしょうか?

 

画商の仕事についてもわかります

DVD
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』
アルバトロス

2020年に日本公開されたばかりのフィンランド映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、その名のとおり、ある年老いた美術商が、作者不明の肖像画を見つけて、それを掘り出し物だと感じて最後の賭け(ラスト・ディール)に出るという物語です。
美術商のオラヴィはすでに妻を亡くしていて、離れて暮らしている孫はもう15歳です。
引退してもおかしくない年齢ですが、掘り出し物を見つける美術商の仕事が好きすぎてやめられません。けれど美術商として成功しているわけでもありません。
映画冒頭のオークションにて600ユーロで仕入れた風景画に1250ユーロの売値をつけていましたが、やってきたお客様に「落札金額を調べたぞ。600ユーロで売ってくれ」などと値切られる始末です。顧客情報もいまだに紙製のカードで管理していて、スマホとインターネットの情報化時代に対応できていません。
そんなおり、近所で開催されるオークションの下見会でオラヴィは一枚の肖像画に目をとめます。フィンランド黄金期の絵画と説明がありますが、署名がなくて作者不明となっており、あまり値段がつかなそうです。
オラヴィは画風を見て、ロシアの巨匠イリヤ・レーピンのものではないかと考えます。もしそうだとしたら、安く購入して高く売るチャンスです。

 

イリヤ・レーピン≪自画像≫
トレチャコフ美術館

しかし、そのためには購入資金が必要です。購入資金を借りて、絵を売った売上から返す手もありますが、そのためには確かにレーピンの作だとお客様に言える証拠が必要です。
はたして、オラヴィの最後の賭けは成功するのでしょうか?
この映画の中でオラヴィは、人生の成功者としては描かれていません。仕事に夢中になりすぎて家族を顧みなかったために、たった一人の娘からも嫌われています。
オラヴィは無愛想で、孫のオットーが、学校の課題である職業体験のために来たときも、面倒だと邪険に扱います。また、仕事においても経済的な成功をおさめることができていません。
そんなオラヴィですが、美術を愛する心と本物を見抜く目だけは確かです。
頑固で偏屈な老人は世界中にいますが、彼らの心のうちの一端を垣間見ることができる映画だと言えましょう。
ちなみに、劇中でオラヴィと孫のオットーが美術館に行くシーンで、日本人観光客が音声ガイドを聴いているのか、突然、日本語が流れてきてびっくりします。
映画の中では、あまり知られていないフィンランドの絵画も見ることができるので、美術ファンは心をくすぐられることでしょう。

 

美術業界の裏側が見られるかも?

DVD『鑑定士と顔のない依頼人』
ギャガ

次に紹介するのは2013年に日本公開されたイタリア映画『鑑定士と顔のない依頼人』です。監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞したジュゼッペ・トルナトーレ。この映画でもイタリアの映画賞を複数受賞しています。
『鑑定士と顔のない依頼人』もまた、頑固で偏屈なおじさんの話です。
といっても、この映画の主人公のヴァージルは、オラヴィとは違って経済的にも成功した一流の美術鑑定士です。
ヴァージルの鑑定事務所への鑑定依頼は引きもきらず、売却依頼を受けた鑑定品は自前のオークションで競りにかけて、自分自身で競売人も務めています。
ヴァージルに妻子はいません。食事中でも手袋を外さず、携帯電話を持たず、電話の受話器を渡されると常に白い布で覆ってから手にとる潔癖症のヴァージルは、人との関わりを最小限に抑えているのです。
そんなヴァージルの密かな楽しみは、自分の邸宅の隠し部屋で美女の肖像画のコレクションを眺めることです。
女性の美を愛でる気持ちは人一倍あるものの、現実の女性は怖いと感じてしまうヴァージルは、自我をこじらせた初老の男性として描かれています。
美女の肖像画コレクションも、正当な方法で集められたものではありません。
鑑定をしている中でこれぞという絵を見つけた場合、ヴァージルはわざと贋作や偽物の判定をして、自分のオークションで相棒のビリーに安く競り落とさせて入手します。元画家のビリーはヴァージルに才能を認められず、画家の道を諦めてヴァージルの悪事の片棒をかついでいます。
そんなヴァージルのもとに奇妙な鑑定依頼が舞い込みます。亡くなった両親の遺産をまとめて売却したいという若い女性からの電話ですが、依頼人の女性はなぜか決してヴァージルの前に現れず、顔を見せようともしないのです。

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール
≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫プーシキン美術館

最初は苛立って依頼を断ろうとするヴァージルですが、依頼人の館で謎の歯車を発見したことから次第にひきこまれ、後にひけなくなってしまいます。
この映画は、経済的に成功してはいるものの、ひとりぼっちの人生をおくるヴァージルの姿から、独身の中年男性の心のうちを洗い出します。
ヴァージルもオラヴィ同様、自分にばかり興味がある孤独な男性として描かれますが、根っからの悪人ではありません。見えないところでずるいこともしていますが、それは平均的な人間の姿でもあります。
そんなヴァージルが女性に振り回される姿に視聴者は次第に感情移入して、ヴァージルとともに感情の渦の中に巻き込まれます。
映画のストーリーテリングはたくみで、なかなか明かされない女性の正体に、一度視聴を始めると見るのを止めることができなくなります。
ちなみに、ヴァージルの相棒ビリーを演じるのは映画『黄金の肉体 ゴーギャンの夢』で画家ゴーギャンを演じたドナルド・サザーランド。
また、ヴァージルの肖像画コレクションには、印象派の巨匠ルノワールの傑作≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫も含まれています。この絵は映画ポスターやDVDジャケットのヴァージルの顔の左側にもちゃんと写っています。
もしこの映画が真実で、ヴァージルが持っている絵が本物なら、プーシキン美術館にある絵は偽物ということになりますね。

 

 

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