アンディ・ウォーホルの歌
～ルー・リードとジョン・ケイルによる追悼

The Cars『Hello Again』Elektra（1984）

20世紀の現代アーティストで、アンディ・ウォーホルほどメディアに愛された人はいないでしょう。
1960年代のニューヨークでは、ウォーホルの一挙手一投足がメディアの注目の的となり、ニュースとなりました。
しかしウォーホルは「誰でも15分間は有名人になれる」とメディアの関心の移り変わりをシニカルに見ていて、むしろ喧噪から身を隠そうとしました。
そんなウォーホルが、死後30年以上を経た今でも、あの時代のポップ・アイコンとして繰り返し語られるのは皮肉なものです。
ポップミュージックの世界では、今もなおアンディ・ウォーホルの名前が歌に引用され続けています。ダンディ・ウォーホルズという名前のバンドまであるほどです。
ウォーホルがロックバンド、カーズのシングル「ハロー・アゲイン」のミュージックビデオの監督を行い、自身もバーテンダー役として出演していたほど、ポップミュージックとのかかわりが深かったからでしょう。

The Cars – Hello Again (Official Music Video)

アンディ・ウォーホルの追悼

1987年のアンディ・ウォーホルの死は各界に影響を及ぼしました。
たとえば、元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードとジョン・ケイルは2人でアンディ・ウォーホルに捧げる曲を作り、1989年に追悼コンサートを行いました。
これは画期的なことでした。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの中心メンバーであったルー・リードとジョン・ケイルの2人は、ウォーホルがかかわった2枚のアルバム発表後に仲違いして、バンドからのジョン・ケイルの脱退を招いています。
その後、1970年にルー・リードも脱退してバンドは解散しますが、以来2人は同じ音楽業界でまったく異なる道を歩んできました。
いわばアンディ・ウォーホルの死が、2人の和解のきっかけになったのです。
1989年の追悼コンサートは好評で、正式にレコーディングされてアルバムが作られました。
それが『ソングス・フォー・ドレラ』（ドレラのための歌）です。
「ドレラ」とはウォーホルの愛称で、ドラキュラとシンデレラを組み合わせたものだそうです。貪欲なドラキュラと可憐なシンデレラの両面を併せ持つウォーホルにぴったりのニックネームです。
アルバム・ジャケットは、ウォーホルがカバー・コンセプトを作ったヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ホワイト・ライト／ホワイト・ヒート』を真似て、リードとケイルのバックにウォーホルの顔が浮かび上がるデザインとなりました。

The Velvet Underground『White Light/Whte Heat』Verve（1968）

Lou Reed & John Cale『Songs For Drella』Sire（1990）

アルバム冒頭の曲「スモール・タウン」（田舎町）で、ルー・リードはピッツバーグで育った子ども時代のウォーホルの心情を歌い上げます。「田舎町で育ったあなたは／『ここからは有名人なんか出やしない』と言う／『ピカソはどこの出身だ？／ミケランジェロはピッツバーグには生まれない／もしアートが氷山の一角なら／ぼくは海に沈んでいる部分だ』／田舎町には一つだけいいことがある／そこから出たくなることだ」また、アメリカで13位にチャートインしたシングル曲「ノーバディ・バット・ユー」（君しかいない）では、銃撃事件の後、社交界のセレブとして過ごしたウォーホルの孤独な心に共感して次のように歌います。「ぼくはとても気をつかってる／そんなふうに見えやしないだろうけど／撃たれて以来／ここには君しかいないから」、「僕は無愛想と思われてる／パーティー好きのアンディと新聞に書かれてる／でも夕食の支払いをするのはいつも僕だ／君みたいな無名の人のために」という歌詞は、20年を経て自分もまたセレブになったルー・リードだからこそ書けたものでした。

John Cale & Lou Reed – Nobody But You

ストラング・アウトが見せる弱さへの共感

Strung Out『Agents Of The Underground』Fat Wreck Chords（2009）

生まれつき身体が弱く、神経性疾患に悩まされて不登校を繰り返したアンディ・ウォーホルのイメージは、どちらかといえばソフトなものですが、ハードコアパンクやヘビーメタルのバンドの中にもアンディ・ウォーホルのファンはいます。
1990年に結成されたアメリカのバンド、ストラング・アウトはキャリアの円熟した2009年の曲「アンディ・ウォーホル」で、ウォーホルのようなマイノリティへの共感を歌い上げています。
「ぼくは引かれた線の上を歩くのが得意じゃなかった／細くてまっすぐな道の歩き方も習わなかった／何も信じられなかったことを残念に思う／だから友達の助けを借りて自分の道を見つけた」で始まる歌詞は、アンディ・ウォーホルのナイーヴな心情に寄り添ったもので、その後のサビ「本当に愛したものを失ったことがなければ歌なんか書けない」が涙を誘います。

Strung Out – Andy Warhol

21世紀にも生き続けるアンディ・ウォーホル

ここまでに紹介したナンバーにとどまらず、ざっと調べただけでも、アンディ・ウォーホルに関係するポップミュージックの楽曲は50曲近く存在します。
その中には、アンディ・ウォーホルの孫世代にもあたるような若いアーティストの作品も多々あります。
たとえば、日本の若手ヒップホップアーティストのSTYLOが、ナイジェリア人の父と日本人の母を持つラッパーのRICK NOVAをボーカルに迎えて2020年にリリースした楽曲「アンディ・ウォーホル」は、現代的な曲調の中に突然差し込まれるアンディ・ウォーホルの名前が耳に残る佳曲です。

また、ポーランドの10代のアーティスト・ukeboy •が2020年にリリースした曲「アンディ・ウォーホル」は、SNSとコロナに覆われる世界の状況をポーランド語で歌った時事的な歌詞で、何か目立ったことをするとすぐにスマホのカメラで撮影されてしまう状況を「誰でも15分間は有名人になれる」といったウォーホルになぞらえて、「アンディ・ウォーホルになった気分」と揶揄しています。
このように2000年以降に生まれた若者にまで、アンディ・ウォーホルは参照されて生き続けているのです。

・ukeboy • Andy Warhol [RANDOM MUSIC VIDEO]

2020年9月から京都市京セラ美術館で開催予定だった大回顧展「アンディ・ウォーホル・キョウト」が、新型コロナウイルス流行の影響で延期になってから1年――ようやく開催の目途がたちました。新たな日程は、今からさらに1年後の2022年9月17日 (土)～2023年2月12日(日)。200点の展示作品の半数は日本初公開とのことで、今から楽しみです。