「私が真犯人だ」盗まれる絵画の秘密
~ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》もムンク《叫び》も簡単に盗まれた
マルセイユの美術館から盗まれたドガの絵「合唱隊」(約1億円)が、2018年2月、バスの荷物室に置き去りのスーツケースから見つかったそうです。9年ぶりの発見でした。
ドガ「合唱隊」
マティス「白と黄色の読書する女性」
実際、美術品のセキュリティは、その価格に比べれば甘いことが多いです。鑑賞するための便宜もありますが、たいていの場合、何百万円もする作品が無造作に壁にかけられています。同じ価格の札束や金の延べ棒が室内にただ置かれていることは滅多にありませんから、その扱いには雲泥の差があります。
日本でも2015年、京阪枚方駅に飾られていた白髪一雄の絵画「作品B」が堂々と盗まれた事件がありました。終電が近いとはいえ、いまだ人通りのある午後11時40分、工事業者の格好をした犯人は、駅構内の壁にボルトで留められていた絵画の前に立ち、ドライバーで取り外すと、布で包んで悠々と出て行ったそうです。 白髪一雄は1924年生まれで、海外でも高く評価される数少ない日本の画家の一人です。その作品はニューヨークのオークションにて約5億円で落札されたこともありました。盗まれた「作品B」は約5000万円相当と見られていますが、そんな作品が、不特定多数の人が通行する駅構内に、普通に飾られていたことに驚きを覚えます。 おそらく、それほどの価値があるとは思われてなかったのでしょう。特別なセキュリティを施されるでもなく、誰でも額縁に触れるような場所に飾られていました。たいていの美術館やギャラリーと同じです。 作品は2年後に見つかり、犯人も逮捕されましたが、駅と警察は発見されるまでは盗難事件があったことを公表しませんでした。いろいろと差し障りがあったのでしょう。
美術品に誰でも容易にアクセスできることは、文化度の高さをも意味します。実際、柵で囲われて、ガラスケースに厳重に納められた美術品では、鑑賞する側も興醒めです。欲を言えば、彫刻などは実際に手で触ってみたいとの気持ちすらあります。 しかし、そのように鑑賞者の便宜を図った結果、盗難や汚損が起きるのも困りものです。美術品は常に、人の目に触れさせる欲望と触れさせたくない欲望とのギャップに悩まされています。
盗難されやすい美術品にはいくつかの特徴があります。
ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」 最後の一つは、その作品が持ち運びの容易な小型サイズであることです。 「モナ・リザ」は77×53cm、油彩画の「叫び」は91×74cmと、片手で脇に抱えられる大きさです。白髪一雄「作品B」は122×96cmとやや大きいのですが、一人で運べないほどではありません。額縁さえ外せば、絵はとても軽いものだからです。 よく盗難に合うことで有名なレンブラントやフェルメール、ドガなどは、小品が多いために狙われやすいと考えられています。冒頭に挙げたドガ「合唱隊」は、わずか32×27cmの絵画でした。 一方、ピカソの「ゲルニカ」は349×777cmの大きさですから、簡単に盗まれることはないでしょう。
しかし、誰もが知っている名画を盗んでも、盗品であることを知ったうえで買ってくれる人がいるのでしょうか。1枚でリスクに見合ったリターンが得られるのでしょうか? これに関して、面白い説があります。実は「モナ・リザ」の盗難は、贋作を複数作って、数多くの富豪コレクターに売りつけるためだったというのです。本当でしょうか? たった1枚の真作を売るよりも儲かりそうですが、発覚のリスクも高くなります。 この話は、とある詐欺師が「私が真犯人だ」と死ぬ前に言い残したものです。「世に盗人の種は尽きまじ」ですが、それと同じくらい嘘つきも多いので、にわかには信じがたいです。 |
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