ゴッホの絵にかけられた贋作疑惑?(2)
~『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか』を読む
日本のゴッホ研究者、小林英樹さんは、現在、本物とされているゴッホの作品のいくつかが贋作であると指摘しています。
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ワシントン・ナショナル・ギャラリーの「左利きの自画像」 フィラデルフィア美術館の「カミーユ・ルーラン」 オルセー美術館の「ジヌー夫人」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の「ひまわり」 そして、第二次世界大戦で消失したとされる芦屋の「ひまわり」
それらは、ゴッホの何を欠いているというのでしょうか。
ゴッホは自分の描いた絵のレプリカ(模写)を、自分で作る画家でした。 1990年に約125億円で落札された「医師ガシェの肖像」も模写(バージョン2)が存在しますし、「ひまわり」に至っては7つのバージョンが存在します。 ただし、ゴッホの模写は、まったく同じ絵を描くものではありません。 前の絵を見ながら、模写をするにしても、新しい創意工夫が加えられ、出来上がった作品は構図や色味が違っています。 そのため「ひまわり」も、花の本数が、3本、5本、12本、15本と、さまざまなバージョンが存在します。 このうち、15本の東京の「ひまわり」と、5本の芦屋の「ひまわり」とに、贋作の可能性があると、小林さんは著書で指摘しています。
左:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館蔵
右:ゴッホ美術館蔵
書籍『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか』では、贋作だと考えられる理由がいろいろと述べられています。 特に説得力があると感じられたのが、他の「ひまわり」は三十号サイズなのに、東京の「ひまわり」と芦屋の「ひまわり」だけが四十号サイズで描かれているという事実です。
油絵は、木枠に張ったキャンバスに描かれますが、描かれたキャンバスはそのまま木枠とともに保存されるわけではありません。たいてい描き終わったキャンバスは、木枠から外されて丸められます。木枠は新しいキャンバスを張って再利用します。 アルルのゴッホは、いくつかの三十号の木枠を使い回して多くの絵を描きましたが、四十号の絵とされるのはこの2枚しかありません。しかも、この2枚の「ひまわり」は同じ四十号でも微妙にサイズが異なります。つまり、異なる木枠を使って描かれた可能性が高いのです。 小林さんは、せっかく作った木枠をたった一回しか使っていないのは不自然だと指摘します。さらに、絵の造形的にもゴッホの手になるものとは認めがたいと書いています。
実は、東京の「ひまわり」には、これまでも何度か贋作疑惑がかけられてきました。そのため、オランダのファン・ゴッホ美術館で鑑定が行われ、真筆であるとの調査結果が発表されています。 小林さんはその鑑定結果についても、ファン・ゴッホ美術館の設立にかかわった人物に重大な疑惑を投げかけて反論しているのですが、ここから先は本を実際に読んだ人だけの楽しみにとっておきましょう。
たとえば、師匠と弟子のような近い間柄、あるいは非常に腕の良い模写師、また画家本人や家族などが制作にかかわっている場合、現在の技術では、真作と贋作の区別は困難です。 職人の時代、工房で絵が作られていたときには、おおぜいの手が加わっていますから、何が真作で何が贋作かの判断基準があいまいになります。弟子の描いた絵に、師匠がサインを入れて高く売るケースもあったそうです。 また、オリジナルと寸分違わぬできのよい模写は、レプリカとして十分に需要があることは、画商として否定できません。
しかし、問題は絵の出来ではなく、作者名というブランドです。 何十億円で購入した絵画が贋作であることが判明したとしたら、その社会的影響は小さなものではありません。 ですから、ゴッホの作品についても、また他の作品についても、よほどはっきりとした証拠がない限り、贋作認定されることはないでしょう。 小林さんの主張はたいへん面白かったのですが、作品を贋作とされて喜ぶ人が少ない以上、疑惑の域を出ないような気がします。
2017年11月3日から、ゴッホの絵画風のアニメーション映画「ゴッホ 最期の手紙」がTOHOシネマズ六本木ヒルズなどで全国公開されます。 また、10月24日からは東京都美術館で「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」が開催され、「寝室」の油絵も展示されます。 小林英樹さんの本とともに、この秋はゴッホの芸術に浸ってみましょう。
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