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草間彌生はアメリカでいかに受け入れられたのか
~アメリカ映画『KUSAMA – INFINITY』が描く60年代

日本を代表する人気画家、草間彌生のドキュメンタリー映画『KUSAMA – INFINITY』は、なぜか日本人ではなくアメリカ人監督によって撮影されました。
この映画は、2018年1月のサンダンス映画祭に出品され、9月から全米24都市で公開されて好評を博し、2019年1月にアメリカとヨーロッパでDVD化されました。
しかし、なぜか日本での映画館での上映はなく、日本版のDVDも存在しません。
そこで、インターネットで海外版DVDを入手して観賞してみました。

 

草間彌生はどこでアーティストになったか

映画は、現在の草間彌生本人へのインタビューと、草間彌生にかかわった人物へのインタビュー、そして過去の映像や写真などを組み合わせて展開していきます。伝記ドキュメンタリーとしてはオーソドックスな作りです。
草間彌生が生まれたのは1929年の長野県松本市です。映画は国宝に指定されている長野県松本城の美しい姿を大写しにします。このあたりはいかにも外国人監督の感性です。
ここで草間彌生の幼少期について語るのは、本人と美術館の学芸員です。その複雑な家庭環境はやがて草間を単身で渡米に至らせます。もし家族や周囲からの理解があれば、草間は20代でアメリカに渡ることはなかったかもしれません。

映画『KUSAMA – INFINITY』

草間彌生の渡米を助けたのは女性画家のジョージア・オキーフでした。見知らぬ日本人女性画家からの手紙に親切に返信し、彼女がアメリカで活動をするサポートをしたのです。
やがて映画を観ている視聴者は、なぜこの作品がアメリカ人によって撮られているかに気づきます。
草間彌生を発見し、評価し、アーティストYAYOI KUSAMAとしたのはニューヨークの現代美術シーンです。日本の美術業界はその間、草間彌生に目も向けず、何の手助けもしませんでした。
当時、草間彌生を含む日本の現代アーティスト6人の展覧会を企画開催したグレス・ギャラリーのベアトリス・ペリーは次のように語ります。
「日本では草間彌生はほとんど知られていませんでした。まったくの無名です」
そこでベアトリスは他の5人の作品をより大きく展示したのですが、この判断に草間彌生は痛く傷ついて、作品の返還を求めてきたそうです。

 

 

草間彌生への逆風と苦闘

日本というアート後進国から来た外国人であり、小柄で若い女性であり、かつ知名度もほとんどない草間彌生は、ニューヨークのアートシーンでも当初は苦労しました。
彫刻家のクレス・オルデンバーグや、アンディ・ウォーホルは、草間彌生が展覧会を開催するとわざわざ見に来てくれるような仲でしたが、良いアイデアやコンセプトがあると平気で盗んでいったと草間は述懐します。
クレス・オルデンバーグを有名にした「ソフト・スカルプチュア(柔らかい彫刻)」は、もともと草間彌生が作っていたものでした。布や綿で彫刻を作るというアイデアは女性アーティストの草間彌生だからこそ生み出せたものです。
また、同じイメージを何枚も連続して並べるアンディ・ウォーホルのアート・コンセプトも、草間彌生のものとよく似ています。草間彌生は、自分がマイノリティだから軽く見られていたと感じています。
しかし、アーティスト仲間が「面白い」と感じて真似をするほどに輝いていた草間彌生の才能と業績が、いつまでも埋もれ続けるわけがありません。
続けて発表したミラールームやミラーボールなども話題になり、草間彌生はニューヨークの現代アートシーンを代表するアーティストへと成長していったのです。ひとたび話題になると、外国人女性という珍しさが、個性として目立つようになりました。

なかでも耳目を集めたのは、招待されていないヴェネツィア・ビエンナーレへのゲリラ参加です。草間彌生は無許可で会場のガーデンに1500個のミラーボールを持ちこみ、1個2ドルで販売したのです。
さらに草間は、古代ギリシャのヌード彫刻ばかりをもてはやす旧弊な美術界に対し、生きている人間のほうが美しいと、公共の場に生身のヌードをさらすハプニング・アートを提示しました。「前衛の女王」の名は伊達ではありません。
しかし、彼女のこの活動は、保守的な日本で非難の的になりました。長野県の恥だとして、学校の卒業生名簿から名前が消されるほどの騒動になったそうです。
やがて話は、帰国した草間彌生の日本社会への幻滅と、病気と自殺未遂に至ります。このあたりは、日本のメディアではなかなかとりあげられないところです。
ちなみに70年代当時の草間作品はひとつ100ドルで売られていたそうです。

 

 

この映画はどこで見ることができるのか

はたして、この作品は日本で公開するに値しないものだったのでしょうか。
まったくそんなことはないと思います。
インターネットで最もよく使われている映画サイトIMDb(Internet Movie Database)によれば、この作品は433人のユーザーが評価して、10点満点中7.2点の評価でした。
画家の映画で比較すれば、同じく2018年に全米公開された『永遠の門 ゴッホの見た未来』が6.9点ですから、決して低い点数ではありません。
また、映画批評家がレビューを投稿する人気サイト「Rotten Tomatoes」では、100%満点で、批評家評価が93%、ユーザー評価が92%と高得点になっています(ちなみに『永遠の門 ゴッホの見た未来』はそれぞれ80%、61%の評価です)。

では、なぜ日本公開はおろか、日本でのDVD商品化すら行われなかったのか。 理由はよくわかりません。 インターネットを通じて海外版が容易に入手できるようになった現在、わざわざ国内で商品化しても十分な売上と利益が見込めないと判断されたのかもしれません。
しかし、やはり日本語のナレーションで見たかったというのが正直な気持ちです。海外版では、草間彌生本人や日本人のインタビューは日本語で聴くことができますが、そのほかの音声は英語のままでした。
また、DVDにはリージョン(地域)コードが埋め込まれているので、間違ってUS版のDVDを買ってしまった場合、日本のプレイヤーでは再生することができません。もし海外版を購入するのであれば、日本とリージョンコードが同じヨーロッパ版を選ぶ必要があります。
もしかして、草間彌生は今もなお日本市場では認められていない、なんてことはありませんよね?

 

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追記(2019.06.19)

 

11月に渋谷に新しくオープンするミニシアター「CINE QUINTO SHIBUYA PARCO」での日本初上映が決まりました。
シネ・クイントはパルコが手掛けるアート系映画館で、『ゴッホ 最期の手紙』の配給なども行っています。

 

公式サイト http://kusamayayoi-movie.jp/

 

 


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