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画家の日常生活を知っていますか?
~映画『画家と庭師とカンパーニュ』と『ぼくの大切なともだち』から

アートは一般的に、生活感がないもののほうが好まれます。アーティストという言葉にも、日常とかけ離れたイメージがあります。そのため、あえてプライベートを秘密にする画家も多いものです。しかし、画家といっても私たちと同じ人間ですから、もちろん生活はあります。今回は、フランスの画家や画商の日常を描いた作品をご紹介しましょう。

 

画家との結びつきが強いフランス映画

最初に紹介するのは2008年のフランス映画『画家と庭師とカンパーニュ』です。

 

監督は1933年生まれのジャン・ベッケル。父親のジャック・ベッケル(1906-1960)も高名な映画監督で、モディリアーニを描いた『モンパルナスの灯』などを撮っています。ちなみにジャック・ベッケルの師匠ジャン・ルノワール(1894-1979)は、印象派の画家ルノワール(1841-1919)の次男です。また、ジャック・ベッケルにジャン・ルノワールを紹介したのは、ポスト印象派の画家セザンヌ(1839-1906)だと言われています。フランス映画は画家との結びつきが強いのですね。

 

映画『画家と庭師とカンパーニュ』は、フランスの画家アンリ・クエコ(1929-2017)の小説を原作としています。エッセイストとしても知られたクエコの原作ですから、主人公の画家と周囲の人物には、現実の画家の生活が色濃く投影されています。物語は、60歳近い画家がパリを離れ、自分の育った田舎町に引っ越してきたところから始まります。画家の両親はすでに世を去っています。荒れ果てた実家の庭を手入れするために画家が庭師を募集したところ、貼り紙を見てやってきたのは、偶然にも小学校時代の友人でした。50年ぶりの再会でしたが、一緒に悪戯をした記憶を持つ二人はすぐに打ち解けます。都会での肩肘張った人間関係に疲れた画家には、故郷の気のおけない古い友人が好ましく感じられます。庭師も、都会で夢を叶えた画家を素直に称賛し、親しさを見せます。

 

一方で、映画は二人の違いも残酷に映し出します。義務教育終了後にそのまま労働者として国鉄に勤めた庭師は、30年近く連れ添った奥さんとも仲が良く、結婚記念日には毎年ニースに旅行に出かけています。娘二人はすでに結婚していて孫にも恵まれ、裕福ではないものの何不自由のない生活を楽しんでいます。田舎町を離れて美術学校に入学した画家の方は、アパートとアトリエと画廊を持つほどにパリで成功しましたが、モデルとの浮気のために奥さんと別居中です。離婚したいという奥さんに対して画家は「籍は入れたまま、お互いに干渉せず自由に生きればいいじゃないか」と提案しますが、受け入れてもらえません。画家には若く美しいモデルの愛人がいますが、もちろん彼女との交際は真剣なものではありません。一人娘が付き合っているのは自分と同年代の写真家で、それも画家には気に入らないことです。都会のリベラルな空気が、初老の画家には耐えきれなくなりつつあるのです。

 

画家は一見、自由に生きているようですが、実は目に見えない内的なしがらみにとらわれています。一方、田舎町でしがらみにとらわれている庭師は、しがらみをしがらみと感じていないかのようです。映画は、庭師を通して画家が自分を見つめ直す物語になっていて、老いを意識し始めた人々の心に強く訴えかけるものとなっています。

 

画商を描いた映画

画家と同じ美術業界に生きる画商は、どのような生活をおくっているのでしょうか。
2008年のフランス映画『ぼくの大切なともだち』は、絵や骨董品を扱う美術商フランソワの日常を描いた作品です。フランソワは成功した美術商です。冒頭、美術品の仕入れで訪れたオークションで、フランソワが紀元前5世紀のギリシャの壺にひとめぼれして、20万ユーロで競り落とす場面があります。予算オーバーを共同経営者の女性に詰問されたフランソワは「これは個人用だ」と言って自宅に送ります。お金には困っていないのです。
しかし、お金のあるフランソワにもないものがあります。それは信頼できる友人です。コレクターの顧客の葬式に参列したフランソワは、参列者の少なさに驚き、そのことを仲間の美術商に話します。すると「おまえの葬式にだって誰も参列しない」ときついコメントをもらうのです。続けて共同経営者の女性にも「あなたには友達はいない」と追い打ちをかけられたフランソワは「10日以内に親友を紹介するよ。できなければ、あの壺をあげよう」と無茶な賭けをしてしまいます。

 

さっそく親友の候補リストを作成して連絡を取るフランソワですが、けんもほろろの対応ばかり。美術品とビジネスに生きてきたフランソワには、仕事を離れた友人などいなかったのです。妻とは離婚し、一人娘にも嫌われているフランソワには美しい恋人がいますが、彼女に対しては弱みを見せたくないため、何の相談もしません。親友とは、あくまでも同性でなければならないかのようです。追い詰められたフランソワが取った行動とはどのようなものか。この先は映画を観た方だけのお楽しみとしておきましょう。監督パトリス・ルコントは『タンデム』、『列車に乗った男』など、男同士の友情を描くのに長けています。興味を持った方は、ぜひご覧になってください。

 

ちなみにこの映画には、全世界で放送されていた懐かしのテレビ番組『クイズ・ミリオネア』が重要な役割をもって出てきます。そこで出てくる次のような美術クイズの答え、あなたにはわかりますか?

 

「全部で8回開催された印象派展に一度も参加しなかった画家は次のうち誰か?」
①セザンヌ ②ドガ ③モネ ④マネ

 

その回答、ファイナル・アンサーですか?
正解は、前回のコラムの最後に書かれています。

 

 


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