画家の子どもは画家になる?
~ピーテル・ブリューゲルから始まる親子画家の系譜
昨今、遺伝学の研究が進み、耳が良いとか目が良いとかの身体的な才能に、遺伝の影響が強いことがわかってきました。
実際に、アスリートやミュージシャンには、親もまたアスリートやミュージシャンである人が少なくないものです。
例えば、世界大会16連覇でギネス世界記録を持つ女子レスリングの吉田沙保里選手の父親は、やはり全日本選手権での優勝経験のあるレスリング選手でした。
日本国内の歴代アルバムセールスランキングで1位の記録を持つ宇多田ヒカルの母親が、一世を風靡した演歌歌手の藤圭子であることも周知の事実です。
クラシックの世界でも、モーツァルトやベートーヴェンの父親は音楽家でしたし、ヨハン・シュトラウスやバッハのように、代々音楽家になる家系も珍しくありません。
では、画家の世界は、どうなっているのでしょうか?
昔は職業選択の自由がなかった
親子の画家として最も有名なのは、16世紀オランダのピーテル・ブリューゲルでしょうか。
父親のピーテル・ブリューゲル(大)は、バベルの塔などの歴史絵や農民を描いた絵画で知られ、長男のピーテル・ブリューゲル(小)も、父親譲りの農民絵画で有名です。
ピーテル・ブリューゲル(大)「バベルの塔」
ピーテル・ブリューゲル(小)「収税人のオフィス」
親子だけではなく、ブリューゲル家はその後も多くの画家を輩出し、画家の家系と言われました。例えば、ピーテル・ブリューゲル(小)の弟であるヤン・ブリューゲル(大)や、その子どもたちも画家として活躍しました。
当時のオランダでは画家は家業であり、ブリューゲル一家だけでなくフランス・ハルスの一家も、5人の子どもが画家となっています。フランス・ハルスは、オランダの紙幣にも肖像が使われた国民的画家です。
フランス・ハルス「ハールレムの聖ゲオルギウス市民隊幹部の宴会」
ハルメン・ハルス「農家の結婚式」
幼少期から英才教育を受けた
一族で画家となるのは、才能が遺伝で受け継がれるだけでなく、幼少期からの成育環境も大きく影響しています。日本でも15世紀の狩野正信に始まる狩野派は、代々絵師の家系として有名になりました。
中でもよく知られているのは、室町幕府8代将軍足利義政に仕えた狩野正信と、その息子の狩野元信、大阪城の襖絵を描いたひ孫の狩野永徳、江戸城を担当したひひひ孫の狩野探幽などです。
その他に日本で有名なのは、葛飾北斎と葛飾応為(お栄)の親子です。北斎には二男四女がありましたが、画家になったのは三女のお栄だけでした。絵師に嫁したお栄でしたが、離縁されたために父・北斎の下に戻り、公私に渡って北斎の世話をしながら自らも絵を描きました。親譲りの画才は、北斎も認めるところだったそうです。北斎親子の生活は、アニメ映画化もされた漫画『百日紅』(さるすべり)や、直木賞作家・朝井まかての小説『眩』(くらら)に、活き活きと描かれています。
2019年3月24日まで森アーツセンターギャラリーで開催されている『新・北斎展』は、初公開作品を含む約480点を展示して約70年に及ぶ北斎の画業の全貌に迫っています。
葛飾北斎『千絵の海』「総州銚子」
葛飾応為「吉原格子先之図」
浮世絵の親子絵師といえば、河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)と河鍋暁翠(とよ)の親子もいます。河鍋暁斎は北斎よりも100年ほど後の浮世絵師で、江戸時代から明治時代にかけて活躍しました。暁斎の晩年の子供であったとよは、父から手ほどきを受けて絵師になり、女子美術大学が開校すると初の女性教授になりました。
これら前近代においては、家業として絵画の制作を行う傾向が強かったため、必然的に親子の画家が多くなります。しかし、近代になって個人がクローズアップされると、親と同じ仕事に付く必要はなくなります。そのため、探してみると意外とその数は少ないのです。親子で画家の例はいくらでもありますが、どちらも有名になるのは難しいのでしょう。
近現代の有名な画家親子とは?
例外的に日本でよく知られている親子画家がいます。上村松園(うえむら・しょうえん)、上村松篁(しょうこう)、上村淳之(あつし)の三代にわたる日本画家です。女性初の文化勲章受章者の松園に続き、息子の松篁も文化勲章を受章、孫の淳之は文化功労者に選出されています。彼らのコレクションは奈良県の松伯美術館にまとめられていて、一度に見ることができます。
フランス近代絵画で親子画家として有名なのが、シュザンヌ・ヴァラドンとモーリス・ユトリロです。私生児として生まれたユトリロは、母親とは違う姓で知られていますが、れっきとした親子です。
血のつながった親子ではありませんが、義理の親子同士で画家という例もあります。フランスの画家ベルナール・シャロワの長男ジャン=クロード・シャロワは、女性画家エメと結婚しました。婚姻でエメ・シャロワになった彼女は、ベルナール・シャロワの義理の娘になったのです。
親子とは不思議な関係で、慣れ親しんだ親の仕事を継ぎたいと思う親近感もあり、偉大な親と比べられるのは不愉快だという独立心もあり、一筋縄ではいかないものです。
印象派の画家ルノワールの3人の息子は芸術分野に進みましたが、俳優、映画監督、プロデューサーと、絵画ではなく新しい映像分野を選びました。そのうちの一人ジャン・ルノワールは、フランスを代表する映画監督として、父親に勝るとも劣らない名声を得ました。
画家アンリ・マティスの息子ピエール・マティスは、ニューヨークに渡って画商として成功しました。同じ絵画でも、制作ではなく販売に回ったのです。父親の遺産を上手に活かした例と言えるでしょう。
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