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フェルメールの贋作、知ってますか?
~自分を馬鹿にした批評家をおとしめるために贋作を作ったメーヘレン

日本では印象派をはじめとするヨーロッパ近代絵画の人気が高いですが、それ以前の時代でも、日本での知名度がとても高く、毎年のように展覧会が開催される画家がいます。その人物の名前はヨハネス・フェルメール。17世紀オランダの画家です。2018年10月5日から、日本では史上最多の作品公開となるフェルメール展が上野の森美術館で開催されています。

 

史上最多といっても、その作品数はたったの8点です。
実はフェルメールは、現存作品数がわずか35点しかない幻の画家なのです。
フェルメール展に合わせて、10月6日からはフェルメールを描いた映画『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』が日本公開されています。これは、謎に包まれたフェルメールの生涯に想像を巡らせたフィクションです。
フェルメールには伝記資料がほとんどないだけに、さまざまなミステリーが存在します。今回は、フェルメールの贋作にまつわる話をお届けしましょう。

 

再発見されてから人気が出たフェルメール

 

フェルメール「天文学者」1668年

フェルメールの現存作品数が少ないのには、いくつかの理由があります。
一つには、生活のために宿屋の経営や画商としての活動を行っていたために、年間2、3作しか描かない寡作の画家だったことです。そのうえ43歳と比較的若くして亡くなったために、生涯に描いた絵画の絶対数が少ないのです。
もう一つの理由は、時代の変化でした。フェルメールの活躍した17世紀半ばのオランダにはレンブラントもいて、オランダ絵画の黄金期と呼ばれていました。しかし17世紀末には戦争でオランダの経済が悪化し、画壇の流行も変化し、フェルメールの絵は売れなくなっていました。その結果、18世紀にはフェルメールは過去の画家として忘れ去られ、作品も散逸していったのです。
ところが19世紀のフランスで、民衆の日常風景を描くクールベやミレーの絵画が受けるようになると、同じく民衆を写実的に描いた17世紀オランダ絵画が見直されるようになりました。その中でもフェルメールは高い評価を受けました。これがいわゆるフェルメールの「再発見」です。
そして寡作で作品数も少ないために、フェルメールの絵画は高額で取引されるようになりました。記録にはあっても、いまだ見つかっていない絵画も相当数にのぼります。
このような状況であるため、新たなフェルメール作品を「発見」して一儲けを企む輩は少なくありませんでした。それがフェルメールの贋作騒動です。

 

フェルメールの贋作画家メーヘレンとは?

 

メーヘレン「エマオの食事」1937年

最も有名なフェルメールの贋作画家は、20世紀の画家ファン・メーヘレンです。
彼が1937年に描いた作品「エマオの食事」が世に出ると、フェルメールの真作が発見されたと騒がれて、オランダはロッテルダムのボイマンス美術館に52万グルデン(約470万ドル)で購入されることになりました。 これがどれほどの価格だったかは、同じ1937年にニューヨーク近代美術館が購入したピカソの「アヴィニョンの娘たち」が2万8000ドルだったといえばわかっていただけるでしょうか。存命の画家だったピカソと、17世紀のフェルメールを同列に比較するのはフェアではありませんが、それくらいフェルメール作品には価値があったのです。
しかし、実際のところ「エマオの食事」は、売れない画家メーヘレンが描いたフェルメールの贋作でした。もしそれが判明していたら、とうていそんな価格はつかなかったことでしょう。価格を保証したのは“発見されたフェルメール”という物語だったのです。

 

メーヘレンは売れない画家でしたが、才能のある画家でした。建築を学ぶ大学生だったときには、正規の美術教育を受けていないのに絵画コンクールで優勝するなど、その技術は確かで、画家としてもたびたび個展を開催するなど環境にも恵まれていました。しかし、古今東西、売れる画家はほんの一握りしかいません。ましてや当時はピカソをはじめとする前衛芸術運動が花盛りで、写実絵画を丁寧な技術で描くメーヘレンは流行からも外れていました。嘘か本当かはわかりませんが、メーヘレンは戯れにピカソ風の絵画を描いて、高名なコレクターに「これが欲しい」と言わせたこともあったそうです。しかし、メーヘレンにとって、たいした技術がなくても描ける前衛絵画を売ることは、誇りが許しませんでした。彼はパレットナイフでキャンバスを引き裂き「(ピカソのような)劣った画家の贋作なんか作りたくもない」と吐き捨てたそうです。

 

時代の流行と合わなかったメーヘレン

 

そんなメーヘレンが尊敬していたのは、同じオランダの先輩画家であるフェルメールでした。メーヘレンは、一度は忘れ去られて、死後に「再発見」されたフェルメールと同様に、自分の絵もいつか再評価されるのだと夢見ていました。しかし、批評家の辛辣な評価にさらされて、個展すらろくに開催できなくなり、いつしか世間への復讐を考えるようになります。彼の考えた復讐とは、フェルメールの贋作を製作して、それを見抜けない批評家連中を嘲笑うことでした。

 

200年も昔の絵画を新しく描くために、メーヘレンは何年もの時間をかけて準備をしました。そして完成した作品「エマオの食事」は、目論み通り高名な批評家の鼻を明かしました。すべての事情を知った現在の目で見れば、「エマオの食事」は画題も画法もフェルメール的ではなく、別人の作だと理解できます。しかし当時の批評家は、これをフェルメールの作品だと信じ、8年後にメーヘレンが贋作だと告白した後もなお、フェルメールの真作だと信じる人が少なくありませんでした。メーヘレンが精魂を傾けたこの作品はそれほどに魅力的で、ボイマンス美術館は、自戒を込めて今もなお展示を続けているそうです。

 

「エマオの食事」は、歴史上最も質の高い贋作作品であると言われています。メーヘレン本人の告白がなければ、おそらく現在もフェルメール作品として飾られていたことでしょう。では、いったいなぜメーヘレンは自白したのか。メーヘレンの後半生についてはこちら>>

 

 


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