美術品の価格を簡単に上げる方法
~ダミアン・ハーストが思いついて実行した異次元のアイデア
美術品の価格は不思議なものです。 いわゆる工業製品であれば、原材料費と製造にかかる設備費、人件費、販管費に利益を乗せたものが価格になりますが、美術品の場合は違います。 美術品の価格は、買う人がその作品の中に見る「価値」次第で、天井知らずに上がります。
「価値」を上げるにはいくつかの方法があります。 一つは「交換価値」を高めることです。その美術品が、より多くの人が欲しがるもので、いつでも適当な価格で「売買」できるのであれば、「価値」はさらに高まります。現在、草間彌生作品の価値が高いのは、多くのファンがいるからでもあります。 もう一つは「ブランド価値」を高めることです。その美術品、あるいは作家の「ブランド」が高くなればなるほど、欲しがる人が増えて前述の「交換価値」が高まります。 また、美術品は基本的に唯一無二の一点モノばかりですから、「ブランド価値」が高くなれば、当然「稀少価値」も高くなります。フェルメールは作品数が30数点と少ないからこそ、価値が高まっている面もあります。 しかし、いずれも簡単にはできることではありません。 実は、それらとはまったく異なる発想で、作品の価格を高めた芸術家がいます。 ハーストの最も有名な作品は、ホルムアルデヒドに漬けて保存した動物の死体シリーズです。4メートルにおよぶサメや、真っ二つに切断されて輪切りの内臓が見える牛など、グロテスクなのに目が離せない作品群はハーストの名声を一挙に高めました。 そのハーストが2007年に制作した彫刻作品「神の愛のために」は、5000万ポンド(約120億円)の売り出し価格とともに披露されました。
「神の愛のために」
とはいえ、実際に売れなければ、価格なんてあってないようなものです。 しかし、なぜ「神の愛のために」は、そこまで強気な価格設定をすることができたのでしょうか。 ハーストは、等身大の人間の頭蓋骨をプラチナ(白金)で作り、その表面に8601個のダイヤモンドを敷きつめたのです。 とはいえ、価格の5000万ポンド(約120億円)のうち、材料費がおよそ1300万ポンド(約31億円)画商の取り分が慣例通り半値の2500万ポンド(約60億円)だとしても、ハーストには1200万ポンド(約29億円)が残ります。作品をつくった芸術家としては十分に満足のいく金額でしょう。 というわけで、美術品の価格を上げる一つの方法として、原価を高くすることが考えられますが、これは作家本人にしか使えない手段ですね。その話題性も含めて、ダミアン・ハーストの面目躍如となった作品と言えるでしょう。 ちなみにダミアン・ハーストは、2012年に米誌「コンプレックス」が調査した芸術家長者番付で、ダントツの1位でした(日本からは6位に村上隆)。 参考文献 |
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