奈良美智の激レアなジャケット・アート
〜音楽と絵画のコラボレーション

価格面で日本の現代アーティストのトップに立つ奈良美智。
これまでに世界の美術オークションで落札された日本のアーティストの作品の価格で見ると、トップ7のすべてが奈良美智の手によるものなのです。

そんな奈良美智ですが、ファインアートの世界でえらぶることはなく、一般に流通する商業作品にも多数の絵を提供しています。
特に音楽のレコードやCDのジャケットに協力することが多く、このコラムでも過去に何度か紹介してきました。

奈良美智がレコードやCDのジャケット・デザインを数多く手掛けるのは、自身がかなりの音楽ファンだからだと聞いています。
今回は主に2010年代前半の奈良美智のジャケット・アートを紹介します。

国際的に評価の高いジャズミュージシャン

伊藤君子×高瀬アキ『まっかなおひるね』
（ビデオアーツ・ミュージック）2010年

ジャズシンガー伊藤君子と、ジャズピアニスト高瀬アキのコラボレーションアルバム『まっかなおひるね』は、奈良美智のジャケットワークの中でも希少品です。

ジャケットに使われたのは奈良美智による1999年の作品≪両手に花≫という名作ですが、中身も負けていません。

シンガー伊藤君子は武蔵野美術大学油絵科を卒業後、歌手を志して1982年にポップ演歌歌手としてデビュー。その後、渡米してジャズシンガーとして成功します。

ピアニスト高瀬アキは1987年からベルリン在住で、ドイツ批評家レコード賞を8回も受賞している実力派です。

この2人が、カナダ生まれの日本の詩人・白石かずこやドイツ在住の芥川賞作家・多和田葉子らが書いた詞に曲をつけて完成したのがこのアルバムです。
レアすぎて入手が難しくなっていますが、機会があれば一度聴いてみたいですね。

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東日本大震災への支援

オムニバス『何ニモ負ケズ / Naninimo Makezu
～songs for children from ARABAKI～』Disc A（ARABAKI RECORDS）2011年

同じくレア盤として有名なのは、宮城県で毎年春に行われているARABAKI ROCK FEST.（あらばきロックフェスティバル）の会場限定で発売されたコンピレーションアルバム『何ニモ負ケズ』です。

2011年3月、東日本大震災が東北地方を襲いました。
その影響で4月に予定されていたARABAKI ROCK FEST.も8月に延期となりました。
その8月の会場で東日本大震災復興支援プロジェクトとして販売されたのが『何ニモ負ケズ』のアルバムです。

収益を被災地の子どもたちのための義捐金に寄付するとのことで、元ザ・イエロー・モンキーの吉井和哉、MONGOL800、THE BACK HORN、タテタカコなど多くのアーティストが参加しました。

あんべ光俊『とうほくLOVE』（イーハトーブ・ウィンズ）2013年

東日本大震災のチャリティー・アルバムは他にもあります。岩手県釜石市出身のシンガーソングライターあんべ光俊が呼びかけた『とうほくLOVE』もその一つです。

ジャケットのアートディレクションは、福島県郡山市出身の箭内道彦、絵は青森県弘前市出身の奈良美智、題字は山形県山形市出身の荒井良二と東北出身者で固められました。
演奏には、青森県青森市出身のシンガーソングライター佐藤竹善（SING LIKE TALKING）が参加しています。

海外も日本も無名も有名もわけへだてなく

Mara & The Inner Strangeness『In Dark Places』（CD Baby）2011

続けて、2011年にはノルウェーのインディーズバンドMara & The Inner Strangeness『In Dark Places』にジャケットの絵を提供しています。

このバンドについては英語でもほとんど情報が見つかりません。
ノルウェーの美術学校で視覚芸術を学んだビジュアルアーティストのマリタ・イソベル・ソルバーグをボーカリストとするアートバンドのようです。

あがた森魚『ぐすぺり幼年期』（Qpola Purple Hz）2012年

一方、2012年には日本のシンガーソングライター、あがた森魚のデビュー40年を記念する、40枚目のオリジナルアルバム『ぐすぺり幼年期』のアートワークを担当しました。
海外のローカルバンドから、日本のベテランフォークシンガーまで、振れ幅の広さも奈良美智のアートワークの特徴です。

あがた森魚は日本のフォークシーンを代表するレジェンドなので、こちらはレアというわけではありませんが、音楽はストリーミングやサブスクで楽しむのが当たり前となった現代では、CDそのものがレア化しつつあります。

入手困難な超レア盤

THE STAR CLUB『あの娘にひとめぼれ』（非売品）2017年

あがた森魚と同じく40周年を記念したCDのジャケットを奈良美智にお願いしたのが、THE STAR CLUBです。1977年に名古屋で結成された日本のパンクロックバンドです。

当時、奈良は愛知県立芸術大学の学生で、地元・名古屋のインディーズバンドとしてTHE STAR CLUBを知って愛聴するようになりました。

それから約20年後の1999年、人気アーティストとなった奈良は、THE STAR CLUBのメジャー17枚目のアルバム『PYROMANIAC』と、ベストアルバム『KITTY MISSILES』の2枚のアルバムジャケットをデザインします（以前のコラムで紹介しました）。ファン冥利につきますね。

さらに約20年後の2017年、結成40周年記念ツアーを行ったTHE STAR CLUBは、ツアーファイナル2DAYSに来場してくれた観客に特典として、代表曲を新録したスペシャルCD『あの娘にひとめぼれ』を配布しました。
このCDジャケットを描き下ろしたのが奈良美智です。THE STAR CLUBのシャツを着た少女が中指を立てている、気合いの入った絵になりました。

2010年代後半以降の奈良美智のジャケット・アートはこちら＞＞

奈良美智のbloodthirsty butchersのジャケット・アートはこちら＞＞

2000年代後半の奈良美智のジャケット・アートはこちら＞＞

2000年代前半の奈良美智のジャケット・アートはこちら＞＞

1990年代の奈良美智のジャケット・アートはこちら＞＞

翠波画廊では、奈良美智を取り扱っています。
ぜひご覧になってください。

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