『サバイビング・ピカソ』
天才画家の魅力と暗部を暴く衝撃の伝記映画
ピカソはその人気の割には映画化の少ない画家です。
ゴッホが多く映像化されているのに対し、ピカソの映画は数えるほどしかありません。
その理由の一つはピカソの遺族が映画化をあまり望んでいなかったことにあるでしょう。
次々と愛人を取り換えて、家族の中からも批判の声が上がっていたピカソは、ゴッホとは異なり愛されキャラではありません。
ピカソの名を冠した映像作品の多くはドキュメンタリーで、ピカソのプライベートには触れず、作品や作風を紹介するだけにとどまっています。
そんなピカソですが、唯一1996年に『サバイビング・ピカソ』のタイトルで映画化された伝記作品があります。
「サバイブ(survive)」には、過酷な環境を生き抜くという意味がありますが、いったいどのような映画なのでしょうか?
愛人との壮絶な人生を描く映画『サバイビング・ピカソ』
『サバイビング・ピカソ』は不遇な作品です。
監督のジェームズ・アイボリーはヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞しているほか、アカデミー賞に何度もノミネートされた偉大なフィルムメーカーです。
ピカソを演じるアンソニー・ホプキンスはアカデミー主演男優賞を二度も受賞した名優で、ジェームズ・アイボリー監督作品の常連でもあります。
しかし『サバイビング・ピカソ』は、両者の華麗なフィルモグラフィーの中では目立たない作品で、批評家の評価も佳作どまりです。
そのため、VHSもDVDも入手困難で、インターネットでもYouTubeやU-NEXTといった限られたサービスでしか視聴できません。
しかし、実際に観てみると意外に面白いというか、ピカソに興味のある人なら見逃せない内容になっています。
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愛人フランソワーズ・ジローの視点で描かれた真実
物語は1943年、第二次世界大戦のただなかでナチス占領下のパリから始まります。
冒頭、ナチスから尋問を受けるピカソのブラックジョークが笑えるのですが、そこは映画のテーマではありません。
実は『サバイビング・ピカソ』の主役はピカソではなく、この年にピカソと出会ってその愛人となった画家フランソワーズ・ジローです。
当時ピカソは62歳、フランソワーズは22歳で40歳の年齢差がありましたが、彼女は周囲の反対を押し切ってピカソと生活を共にして、ピカソの子どもを2人産みました。
ピカソにはすでに2人の子どもがいました。最初の妻オルガとの間にもうけた長男パウロと、愛人マリー・テレーズが産んだ長女マヤです。
ピカソが離婚しなかったために正妻の地位を守り続けたオルガと、ピカソが毎週木曜日に訪問していたマリー・テレーズ、さらに《泣く女》のモデルとして有名な写真家ドラ・マールもいて、女の闘いが繰り広げられます。
実はフランソワーズ・ジローは、名だたるピカソの愛人のなかでただ一人、自分からピカソのもとを去った女性として知られています。
10年間をピカソとともに過ごしたフランソワーズですが、ピカソが新たな愛人ジャクリーヌと親しくなったのをきっかけに、2人の子どもを連れて離別します。
映画では、ふられるという珍しい経験をしたピカソが狼狽するシーンが印象的に描かれています。
ピカソと別れたのち、フランソワーズは自伝『ピカソとの日々』を著わして出版しようとしますが、「プライバシーの侵害だ」と激怒したピカソは、あの手この手を使って出版を妨害します。
最終的に裁判で出版が認められることになったのですが、その顛末についてさらに、ジャーナリストのアリアーナ・S・ハフィントンに『ピカソ偽りの伝説』として書籍化されてしまうなど、ピカソにとってはさんざんな結果になりました。
映画『サバイビング・ピカソ』は、この『ピカソ偽りの伝説』が原作としてクレジットされています。
過酷な環境をサバイブしたのは、ピカソではなくフランソワーズだったのです。
映画『サバイビング・ピカソ』のポスターには、フランソワーズの自伝『ピカソとの日々』の表紙と同じく、フランソワーズにパラソルをさしかけるピカソの構図が使われています。
フランソワーズ・ジローは2023年6月6日に101歳で亡くなりました。
ピカソより40歳年下ではありますが、ピカソが1973年に亡くなった後50年も生きながらえました。
映画の意外な見どころはピカソの親友サバルテス
ピカソというビッグネームを軸に、フランソワーズ・ジローという一人の女性が自立するまでを描いた『サバイビング・ピカソ』は、残念ながら映画賞とは無縁で、よくある伝記映画の一つとして記録されています。
制作当時68歳だったジェームズ・アイボリー監督も、この作品を機にメガホンを取ることがだんだんと少なくなりました。
実はアイボリー監督はゲイで、公私にわたるパートナーのイスマイル・マーチャントと共に、マーチャント・アイボリー・プロダクションズとして映画製作を行ってきました。
アイボリー監督の名作は、同性愛を描いた『モーリス』をはじめ、伝統や常識の中で押しつぶされそうになる人間の痛ましさへの共感が目立ちます。
その意味では、もともと常識から外れたピカソに対し、むしろ常識を武器に自立をはかるフランソワーズの物語は、かみ合わせが悪かったのかもしれません。
『サバイビング・ピカソ』の劇中で光っていたのは、ピカソの親友で秘書を務めていたジャウマ・サバルテスです。
わがままなピカソに愛想を尽かすフランソワーズに対し、最後までじっと耐えながら尽くすサバルテスは、アイボリー監督が名作『日の名残り』で描いた老執事を思わせるキャラクターで、アイボリー節の見せ場となりました。
ピカソの熱心なファン以外にはあまり知られていないサバルテスですが、アイボリー監督が本当に描きたかったのはこの男同士の関係だったかもしれません。
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