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ユトリロが53歳で初めて結婚した相手は65歳の未亡人だった
~なぜユトリロは晩婚だったのか?

母親に言われるがまま絵を描いて人気画家となったユトリロ。
彼女はその後もユトリロの人生を翻弄し続けます。
ユトリロがようやく平穏な人生を手に入れたのは、母シュザンヌが亡くなってからでした。
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53歳で初めての結婚をしたユトリロ、その相手は?

モーリス・ユトリロ
《クリニャンクールのノートル=ダム教会】》
1911年頃

ユトリロの人気が出て、生活にゆとりが出た母シュザンヌ・ヴァラドン。
1909年、彼女は、実直な夫ムージスを裏切り、ユトリロの画家仲間であったアンドレ・ユッテルを愛人として同棲生活を始めます。
シュザンヌは43歳、ユッテルはユトリロよりも3歳年下の22歳でした。
自分よりも年下の友人と母との交際は、ユトリロを深く落胆させました。
1914年に正式に結婚したシュザンヌとユッテルは、以後、ユトリロの親として、ユトリロの絵からの収入で暮らすようになります。
情熱のおもむくままに恋愛と芸術に身を捧げたシュザンヌは、21歳年下のユッテルとの交際を糧に、生涯最高といわれる作品を残しますが、ユッテルは逆に絵をほとんど描かなくなり、ユトリロのマネージャーとして作品を管理するようになりました。
ユトリロにとって不幸だったのは、この二人がユトリロの作品を心からは評価してはいなかったことです。
彼らにとって、それは「好きな絵」ではなく「売れる絵」でした。
そのため、母の再婚以降、ユトリロのアルコール依存症は再び悪化しました。
ユトリロは1901年の初めての入院から1924年までの24年間に9回、精神病院への入退院を繰り返しています。
1924年、家から脱走したユトリロは、交番でつかまると、壁に頭を打ちつけて自殺未遂をしました。
以降、シュザンヌはユトリロの快復を諦めて、彼を家に閉じ込めて外に出さないようにしました。
それから亡くなるまでの31年間、ユトリロは自宅に軟禁された世捨て人として暮らしたのです。
シュザンヌも、晩年は決して幸せではありませんでした。
1933年、47歳になったユッテルは、容色の衰えた68歳のシュザンヌを捨てるように若い女を見つけて家を出ていきました。糖尿病で弱ったシュザンヌは、1938年、脳出血によって72歳で死去します。
死ぬ前のシュザンヌの心配事は、息子ユトリロの生活でした。
幸いお金には困らなかったとはいえ、自分の死後、ユッテルがユトリロの財産を奪わないとも限りません。ユトリロには、シュザンヌの代わりとなる後見人が必要でした。
そこでシュザンヌは、自分の絵のファンであった未亡人のリュシーをユトリロと結婚させることにしました。
こうしてシュザンヌの死の前年、ユトリロとリュシーの結婚式が執り行われました。
ユトリロは53歳になっていましたが、新婦のリュシーは12歳年上の65歳でした。
29歳で人気画家になるまで女性経験がなく、生涯母親の愛を求め続けたマザコンのユトリロは、意外にもこの結婚に満足していた節があります。
1955年に71歳で死ぬまで、ユトリロはリュシーにマネージメントされて穏やかな絵描き人生を送りました。
晩年にようやく訪れた、平穏で幸福な生活でした。

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ユトリロの「色彩の時代」

モーリス・ユトリロ
《ベシーヌ・シュル・タンプの教会》」
1952~1954年

1913年以降、人気が出て高価な絵具セットを使うようになったユトリロは、「色彩の時代」に入ります。
しかし、カラフルになったユトリロの絵は、それほど高く評価されていません。
「白の時代」の絵の人気が高すぎるために、「ユトリロといえば白」のイメージがつきすぎてしまったのです。
また、有名画家になったユトリロは、外で絵を描いていると通行人にじろじろ見られたり、子どもたちにからかわれたりすることが多くなりました。
それが嫌になったユトリロは、「白の時代」の後半から写生をやめて、写真や絵葉書を見ながら室内で絵を描くことが多くなりました。
それも、以降の絵画の評価が高まらない理由の一つかもしれません。
しかし、ユトリロの生涯を通して作品を眺めると、「白の時代」以外にも良い作品が多いことに気がつきます。
白の時代では心に秘めた寂しさを投影するような、観るものに強く訴えかけてくる険しさがありましたが、色彩の時代に入ると鮮やかな色彩を使った穏やかな印象の絵に変わっていきます。
それは、ユトリロが経済的にも精神的にも一応の安定を手に入れたからではないでしょうか。
当初はアルコール依存症の治療として絵を描き始めたユトリロでしたが、症状が落ち着いてからも画風を変えながら、生涯絵を描き続けました。
それはユトリロ自身が絵を描く楽しさに目覚めたからではないかと思います。
とはいえ、ユトリロほど、絵の良し悪しが値段に反映される画家はいないでしょう。
「白の時代」のように、建物が遠近感と立体感を伴って、堅牢に立っている絵は評価も高く人気があります。
一方、晩年の作品《ベシーヌ・シュル・タンプの教会》は、遠近感や建物の重厚さという点で弱く、価格的には安くなってしまいます。
この作品は、2015年、パリのクリスティーズのオークションで、手数料込み6万1500ユーロ(約800万円)で落札されました。ユトリロの油彩作品の中ではかなりの安値といっていいでしょう。
それでも絵の全体から漂ってくる哀愁はユトリロらしさを感じさせてくれます。

翠波画廊では、ユトリロ作品を取り扱っています。
ぜひご覧になってください。

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