レンブラント≪旗手≫

2022年、鳥取県が県立美術館の目玉としてアンディ・ウォーホル《ブリロの箱》5点を約3億円で購入したことが公金の無駄遣いではないかと物議を呼びました。
一方、同じ年にオランダのアムステルダム国立美術館は、1億7500万ユーロ（約250億円）もの大金でレンブラントの絵画≪旗手≫を購入して話題になりました。
同作品はロスチャイルド財閥のフランス分家の当主、エリック・ド・ロスチャイルドのコレクションであったものを、レンブラントの故国であるオランダ政府の協力のもとに国立美術館が買い戻したものです。オークションではなく直接の打診からの取引でした。
この金額は、2015年に同じくエリック・ド・ロスチャイルドが売却した2枚1組の絵画≪マールテン・ソールマンとオープイェ・コピットの肖像≫の1億6000万ユーロを超えて、レンブラント作品の最高額となりました。
美術品の価格はどのように決まるのか、アートドキュメンタリー映画『レンブラントは誰の手に』を通して考えてみましょう。

映画はここでヤン・シックスから離れて、レンブラントをめぐる一つの争いを提示します。
2015年、レンブラントによる2枚1組の肖像画≪マールテン・ソールマンとオープイェ・コピットの肖像≫が1億6000万ユーロ（約1億8000万ドル）の高価格で売却されたことがニュースになりました。
元の所有主はエリック・ド・ロスチャイルド。ロスチャイルド財閥のフランス分家の当主です。彼は相続税の支払いのために絵の売却を決意し、2枚セットで売りに出します。
これに最初に興味を示したのがレンブラントの故郷であるオランダのアムステルダム国立美術館です。婚礼の肖像画として夫婦をそれぞれに描いた絵は一組であるべきと2枚セットでの購入を検討しますが、いかんせん約200億円になる価格が高すぎます。
そこでアムステルダム国立美術館は、ルーヴル美術館に共同購入の話を持ち掛けました。この絵はフランスのロスチャイルド家の所有物ですから、フランスとしてもできれば手放したくないだろうと考えたのです。
ここまでは円満な話し合いでしたが、その先がこじれました。
アムステルダム国立美術館は国民に寄付を募って約1億4000万ユーロを集めたのですが、その間ルーヴル美術館は何もせず、資金の手当てがつかない状況でした。そこでオランダはフランスを見限って、単独で購入しようとしたのです。
こうなると面子をつぶされたとばかりにルーヴル美術館も立ち上がります。フランスには重要文化財の国外流出を防ぐための法律がありますが、この絵はそれに指定されていませんでした。しかしルーヴル美術館はフランスの文化大臣をまきこんで、国外への売却を阻止しようと外交戦を展開してきたのです。
オランダとフランス、最終的にどちらが勝ったのかはここでは言及しませんが、2枚で約1億8000万ドルという売却価格は当時のレンブラント作品の最高価格として記録されました。
7年後の2022年、アムステルダム国立美術館がレンブラント≪旗手≫1枚に約1億9800万ドルも支払って入手したのは、このときの悔しさを忘れていなかったからだと言われています。

1.ダ・ヴィンチ≪サルヴァトール・ムンディ≫約4億5000万ドル（オークション）2017
2.デ・クーニング≪インターチェンジ≫約3億ドル（個人間取引）2015
3.セザンヌ≪カード遊びをする人々≫約2億5000万ドル（個人間取引）2011
4.ゴーギャン≪いつ結婚するの？≫約2億1000万ドル（個人間取引）2014
5.ポロック≪ナンバー17A≫約2億ドル（個人間取引）2015
6.ウォーホル≪ショット・オレンジ・マリリン≫約2億ドル（個人間取引）2017
7.レンブラント≪旗手≫約1億9800万ドル（個人間取引）2022
8.ウォーホル≪ショット・セージブルー・マリリン≫1億9500万ドル（オークション）2022
9.ロスコ≪No.6≫約1億8600万ドル（個人間取引）2014
10.クリムト≪水蛇Ⅱ≫約1億8400万ドル（個人間取引）2013
次点：レンブラント≪マールテン・ソールマンとオープイェ・コピットの肖像≫（2枚1組）約1億8000万ドル（個人間取引）2015