2022年のブラック・アートの隆盛
~バスキア、ドウツ、ソニア・ボイス
アクリル、パステル、コラージュ 60x60cm
「ブラック・アート」が盛り上がっています。
2022年の第59回ヴェネチア・ビエンナーレでは、黒人女性アーティスト、ソニア・ボイスが手がけたイギリス館が国別パビリオン部門の金獅子賞を受賞しました。
また個人のメイン展示部門でも、アメリカの黒人女性アーティストのシモーヌ・リーが金獅子賞を受賞しました。どちらの部門も黒人女性の受賞は初めてでした。
イギリスは次の2024年ヴェネチア・ビエンナーレのイギリス代表にも、ガーナ出身の黒人男性アーティスト、ジョン・アコムフラを選びました。
また、イギリスで最も権威のある美術賞のターナー賞でも、2022年は黒人女性アーティストのヴェロニカ・ライアンが受賞しました。黒人女性の受賞は、2017年のルベイナ・ヒミド以来の2人目でした。
ブラック・アートとは何か
美術出版社(表紙:アレクシス・ペスキン)
日本語で「ブラック・アート」という言葉を見るとき、それを単に「黒人作家によるアート」と受け取ってしまいがちですが、もう少し複雑な意味合いもあります。
第一に、肌の色が黒いかどうかが芸術作品と何の関係があるのかという本質的な問題があります。グローバリズムの時代、アフリカにルーツを持つ芸術家は世界中にいて、育った環境の異なる彼ら彼女らを「ブラック・アート」の名のもとにまとめることができるのかと問われればたしかに疑問です。
では「ブラック・アート」とはどのような経緯で生まれた言葉なのか――それはアフリカ人を苛んだ奴隷制と植民地支配、そして帝国主義の歴史に対する格闘としてつくられた政治的な意味合いが強いのです。
2020年のジョージ・フロイド事件によって全米にBLM(Black Lives Matter)運動が盛り上がったように、現代でもまだ人種差別の根は残っています。奴隷制と植民地支配の負の歴史を、人類はまだ清算しきれていないのでしょう。
ポップカルチャーの世界ではしばしば天使は白、悪魔は黒で表され、ホワイト企業・ブラック企業のように白と黒が善と悪の象徴のように使われますが、これは白人の世界観を反映したものであり、黒人の神話ではもちろん黒が善なのです。
「ブラック・アート」とは、このようにブラック・パワーを称揚する言葉です。
そう説明すると、日本には馴染みの薄い言葉であるように思えますが、イギリスでは非白人の有色人種をすべて「ブラック」とくくってきた歴史があります。
アフリカ系ばかりでなく、南米のアフロ・カリビアン系、インドなどのアジア系、そして中国や日本などの東アジア系ですら広義の「ブラック」の範疇に含まれています。
また、直接は奴隷制にはかかわっていないとしても、遅れてきた帝国主義国家としてアジアを植民地化した日本が「ブラック・アート」と無関係とは言いきれません。
日本人と在日コリアンとの関係は、イギリスの白人と黒人との関係にも似ています。また欧米でアジア系として差別されることもある日本人は、西洋中心主義に対する抵抗としての「ブラック・アート」に共感できる部分もあります。
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ニグロ・アートという流行語
今ではほとんど使われなくなりましたが、「ブラック・アート」の類似語として「かつて「ニグロ・アート」という言葉がありました。
どちらも「黒人芸術」と訳せるため違いが見えにくくなっていますが、差別語とされることが多い「ニグロ」を含む「ニグロ・アート」は、アートの「本場」である西洋の白人から見たアウトサイダー・アートの意味合いを持っていました。
「ニグロ・アート」は20世紀初頭の西欧美術界が新しい表現を求めて、アフリカやオセアニアの伝統美術に可能性を発見したことに始まります。その少し前には日本美術に夢中になって「ジャポニスム」という流行を生み出した彼らは、今度はアフリカン・アートを「ニグロ・アート」として持ち上げたのです。
その中心にいたのが、パブロ・ピカソやアンリ・マティスやジョルジュ・ブラックなど当時の前衛芸術家でした。美術史に残る傑作として知られるピカソ《アヴィニョンの娘たち》には、明らかに「ニグロ・アート」からの影響が見られます。
しかし「ニグロ・アート」という言葉は、西欧美術から見た周縁性ばかりに注目しているため、アフリカやオセアニアの多様な文化を雑にまとめてしまう嫌いがあります。ダヴィッドとセザンヌを「白人アート」として一緒に評価する乱暴を想像すれば、その傲慢さに気がつくことでしょう。
グローバリズムによって文化の混交が進んだ現在、人種や地域による分類はますます難しくなっています。
ブラック・アートの先駆者バスキア
「ニグロ・アート」は単に物珍しい文化に対する西欧からの好奇の目線でしたが、現代の「ブラック・アート」は黒人芸術家たちによる自称でもあり、自分たちの伝統や文化に対する誇りが込められています。
アメリカにおける「ブラック・アート」のさきがけとして知られるのは、1980年代にアートシーンに登場してメディアの寵児となったジャン=ミシェル・バスキアです。
アメリカの黒人といえば奴隷の子孫のように語られることがありますが、バスキアはハイチ移民の父と、プエルトリコ系アメリカ人の母との間に産まれたアフロ・カリビアン系で、アメリカの奴隷制に直接苦しめられたわけではありません。しかし、アメリカでは黒人に対する根強い差別があり、60年代ニューヨーク生まれのバスキアも、「手を挙げてもタクシーが止まってくれない」といった蔑視を受けることがよくありました。
一方で、黒人芸術家の代表のような扱われ方をするのもバスキアには不満でした。「ブラック・アート」のラベルは、個人の内面を無視するかのように感じられたからです。
実際のところ、バスキアの描く絵に出てくる人物は黒人が多く、アフロ・カリビアンの伝統や文化が感じられるものでしたが、珍しい黒人芸術家として「黒いピカソ」などとマスコミにレッテルを貼られるのは、バスキアにとって愉快なことではありませんでした。「ブラック・アート」はセンシティブな言葉なのです。
翠波画廊では、セネガル出身でフランスで活躍した黒人画家ドウツの作品を取り扱っています。
アフリカの色彩が感じられるドウツの絵をぜひご覧になってください。
ドウツ おすすめ作品
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