油絵で描かれたアニメーション映画
『ゴッホ 最期の手紙』は何がすごいの?
古今東西の画家のなかで、その人気を長く強く維持している人物の名前を一人上げるとしたら、オランダのフィンセント・ファン・ゴッホになるでしょう。
イギリスの美術紙「The Art Newspaper」の2017年の調査によれば、世界のミュージアム(美術館および博物館)の入場者数ランキングで、アムステルダムのゴッホ美術館は27位(208万人)でした。
27位と聞くとたいしたことがないように思えるかもしれませんが、日本でトップの東京国立博物館(31位)よりも上位ですし、個人美術館ではダントツの1位です。
個人美術館で100位以内に入っているのは、スペインのフィゲラスにあるダリ劇場美術館(57位)と、バルセロナにあるピカソ美術館(71位)しかありません。その入場者数も、ダリが113万人、ピカソが95万人と、ゴッホの半分程度にとどまります。
また、日本では毎年のようにゴッホ展が開催されていて、2022年7月現在も角川武蔵野ミュージアムで体感型の展覧会「ファン・ゴッホ ―僕には世界がこう見える―」が好評を博しています。
なぜゴッホがそれほどまでに人々をひきつけるのかといえば、やはりその強烈な生涯と鮮烈な絵のイメージがマッチしているからでしょう。
今回は映画『ゴッホ 最期の手紙』から、ゴッホの魅力に迫ります。
油絵を動かした初のアニメーション映画
《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》
1888年
2017 年の映画『ゴッホ 最期の手紙』は数あるゴッホ映画のなかでほぼ唯一のアニメーション作品として異彩を放つ作品です。
しかも、ただのアニメーションではなく手描きの油絵で作った実験的なアニメとして、第90回アカデミー賞の長編アニメ映画賞にノミネートされ、第30回ヨーロッパ映画賞の長編アニメ映画賞を受賞した質の高い作品でもあります。
アニメというのは、パラパラ漫画のように数多くの絵を1コマずつ撮影して、あたかも絵が動いているかのように見せるものです。
6万5000コマを油絵で描ききったこの作品は完成までに4年がかかりました。また、絵を描くために日本を含む世界20か国から100人以上の油絵画家が集められました。
時間がかかったのは、油絵でアニメを作ったからだけではありません。
制作陣は、先に俳優を選んで実写映像の撮影を行い、その実写フレームをキャンバスに投影して画家に油絵を描かせたのです。そのためキャラクターの絵は役者のおもかげを残しています。
実写ではなくアニメになってしまうため、超有名俳優は出演していませんが、日本語吹き替え版の声優には実力派がそろっています。日本語版では主人公のアルマン・ルーランの声を山田孝之、その父親の郵便配達人ジョゼフ・ルーランの声をイッセー尾形が担当しました。
ゴッホの死の謎をめぐるサスペンス
《アルマン・ルーランの肖像》
1888年
映画『ゴッホ 最期の手紙』はその形式だけでもかなり野心的な作品でしたが、ストーリーのほうも一筋縄ではいかない良質のミステリーでした。映画公開当時は、制作手法の特異性ばかりに焦点があたって、内容についての言及が少なかったのが残念です。
物語は1891年、つまりゴッホの死の1年後のアルルから始まります。
ゴッホと親しくしていた郵便配達人ジョゼフ・ルーランは、ゴッホから弟のテオに宛てた手紙の1通が宛先不明で戻ってきていることを発見します。ジョゼフ・ルーランは、長男のアルマン・ルーランに、テオを探して手紙を渡してほしいと頼みました。
もちろんこのストーリーはフィクションです。現実には、当時ルーラン一家は仕事の都合でアルルからマルセイユに引っ越していましたし、ゴッホの手紙が未配達のまま残っていたという事実もありません。
映画では、アルマン・ルーランが手紙を届ける過程で、生前のゴッホを知るさまざまな人に出会います。しかし、人によってまったく言うことが違うため、はたしてゴッホはどのような人物であったのかがミステリー仕立てで明かされていくことになります。
ゴッホの弟テオも半年後に死んでいた
1887年
当初、アルマンはあまり気乗りがしませんでした。
実はアルルにおけるゴッホは、自分の耳を切って娼婦に渡した気の狂った画家として知られていて、事件の後には「このような人間が住んでいると不安だから精神病院に収容してほしい」という住民の嘆願書まで役所に提出されていたのです。これは事実です。
閉鎖的な田舎町アルルの住人の一部は、オランダから来た外国人画家ゴッホのことをあまりよく思わず、耳切り事件をきっかけにゴッホを排斥していたのです。
結局、ゴッホは自らアルルを離れてサン=レミの療養所に入院することを選びました。ゴッホにとってアルルは憧れの土地でしたが、アルルの住人にとってゴッホは招かれざる客であったようです。
ゴッホが有名になったのちに手のひら返しが始まり、アルルの人々はゴッホを観光資源として扱うようになりましたが、当時はまだそんな状況ではありませんでした。
父ジョゼフの頼みでしぶしぶテオの住むパリに向かったアルマンは、そこでゴッホと親しくしていた画材屋のタンギー爺さんから「ゴッホが死んだ半年後にテオも死んだ」と告げられます。
葬儀に参加したタンギー爺さんから、ゴッホの最期を看取った医師ガシェの存在を教えてもらったアルマンは、ガシェ医師が手紙を渡すのにふさわしい人物かどうかを見極めるために、ゴッホが自殺した地オヴェールへと向かいました。
ゴッホはなぜ死なねばならなかったのか?
1890年
ゴッホの死には謎がたくさんあります。
前日まで絵を描く気まんまんで絵の具の注文もしていたのになぜ突然自殺したのか?
自殺に使ったピストルはどこで手に入れたものなのか。そのピストルの行方は?
ゴッホの死の半年後にテオが死んだのはなぜか?
映画は丁寧にその謎をひもといていきます。
その過程で明らかになるのは、ガシェ医師の娘マルグリット・ガシェに、ゴッホが好意を寄せていた事実です。そして娘を守ろうとするガシェ医師とゴッホの口論があり、テオ夫妻とゴッホの間にもお金をめぐる喧嘩がありました。
こうなると、すべての関係者が疑わしく見えてきます。
はたしてゴッホの死の真相とは? そしてゴッホはいかなる人物だったのか?
ゴッホといえばアカデミー賞を受賞した映画『炎の人ゴッホ』のイメージから、狂気の天才画家と思われていますが、残された膨大な手紙を読むと冷静で理知的な一面が浮かび上がってきます。
伝記的事実を時系列で追うという面では『炎の人ゴッホ』のほうがわかりやすいですが、ストーリーの面白さと新たな発見を求めるなら『ゴッホ 最期の手紙』がおすすめです。
翠波画廊の専属作家のギィ・デサップは、若い頃ゴッホに傾倒してアルルに移住したことまである現代の印象派です。
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