ウクライナの画家マレーヴィチ
~ソ連国家に迫害された悲劇の抽象画家
《自画像》1933年
ロシア美術館
2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。
海に囲まれた日本とは異なり、地続きのロシアとウクライナの領土関係は難しく、その原因を簡単に語ることはできません。
この地に生まれた人々は、しばしば国家間の争いの犠牲者になってきました。
その中にはシャガール、カンディンスキー、マレーヴィチなど多くの画家が含まれています。
なかでもウクライナ生まれの画家マレーヴィチの人生は悲劇でした。
抽象絵画の極北
1915年、パリ国立近代美術館
マレーヴィチが56歳で亡くなる2年前に描いた自画像を見ると、ウクライナの民族衣装を着た伝統的な画家のように思えます。
しかし、マレーヴィチの名を高からしめたのは、本人がシュプレマティスム(至高主義)と呼んだ孤高の抽象絵画です。
白い地に黒い正方形を描いただけの作品は、これ以上ないというほどの抽象絵画です。今は油絵具のひびわれが見えますが、当時はただ真っ黒の正方形です。
1918年、ニューヨーク近代美術館
その3年後に描いたのは、白い地に描いた白い正方形です。
お笑い芸人であれば「いいかげんにしなさい」と突っ込むところかもしれませんが、マレーヴィチは真面目にシュプレマティスムの美しさを感じていました。
実際、眺めているとそのシンプルさに魅了されてくるのです。
マレーヴィチとシャガールの対立
マレーヴィチが生まれたのは現在のウクライナの首都キエフ近郊の村です。当時はまだウクライナという国家はなく、その領土はロシア帝国の支配下にありました。
両親はポーランド人の芸術家で、マレーヴィチはポーランド語とウクライナ語とロシア語の3か国語をあやつり、芸術の薫陶を受けて育ちました。
働きながら芸術活動を行うようになったマレーヴィチは、当初はキュビスムや未来派に影響を受けた絵を描いていました。
1912~1913年、グッゲンハイム美術館
その作風はあまり一定せず、流行をとりいれつつも模索する時代が続きましたが、36歳のときに描いた《黒い正方形》でブレイクすると、その後は抽象絵画の旗手として活躍することになります。
1917年にロシア革命が起きると、マレーヴィチは若手芸術家として政府の芸術委員会のメンバーに選ばれました。
また、ロシア革命の成果として、ウクライナとベラルーシが自治権を獲得して、ロシアとともにソビエト連邦を構成することになりました。
この頃、同じく政府の芸術委員会のメンバーに選ばれたのが、ベラルーシ出身の画家シャガールです。
シャガールは故郷のヴィーツェプスクの美術監督に任命されて、その地に美術学校を創設して校長になりました。
意欲のあったシャガールは、美術学校の教師として新進気鋭のマレーヴィチを呼び寄せます。
しかし、教師として来たマレーヴィチは、校長であるシャガールの絵を古臭いと批判して、美術学校を追放するのです。失意のシャガールはソ連を去って、フランスへ戻りました。
同様に、ソ連を見限ってドイツに逃げたのがロシア生まれの画家カンディンスキーです。
ソ連における前衛絵画の弾圧
1932年、ロシア美術館
しかし、ロシア・アヴァンギャルドの理論家として高い地位を得たマレーヴィチも安泰ではいられませんでした。レーニンが死去してスターリンが権力を握ると、前衛芸術に対する批判が強まったのです。
ソ連にとどまったマレーヴィチは、資本主義国家のスパイの嫌疑を抱かれて何度か逮捕され、社会主義を賛美する政治的な絵を描かざるを得ませんでした。
現在に残るマレーヴィチのシュプレマティスムの絵は、すべてドイツに残されていたものです。マレーヴィチは自身に対する批判を予期するかのように、過去の作品の多くをドイツに避難させていました。
政府によってシュプレマティスムを捨てさせられたマレーヴィチは、その後は何が描かれているかがわかる具象絵画を描くようになりました。
その行きついた先が、冒頭にかかげた自画像です。
ソ連が崩壊してウクライナが完全に独立したのは、マレーヴィチの死後56年を経た1991年のことでした。
ロシアとウクライナの関係を難しくしているのは、民族的な近さです。
ロシア人とウクライナ人はもともと同じ東スラヴ民族で、その起源は中世のキエフ大公国にあります。キエフ大公国は正式名称をルーシといい、住人はルーシ人と呼ばれました。ルーシはロシアの語源です。
キエフ大公国(ルーシ)はもともとロシアで建国されましたが、領土を拡大して首都をキエフに移動しました。キエフは現在のウクライナの首都です。このキエフ大公国に住んでいたのが、現在のウクライナ人の祖先です。
9世紀から400年ほど続いたキエフ大公国ですが、ジンギス・カンの起こしたモンゴル帝国に侵攻されて解体されます。
その後、この地は小国家の林立する状態になりましたが、13世紀にはリトアニア大公国に統合されました。
リトアニアは今のベラルーシの北西に位置する小国ですが、当時はリトアニアだけでなくベラルーシやウクライナの領土をも含む大国でした。
このリトアニア大公国は、16世紀にポーランド王国と統合してポーランド・リトアニア共和国となります。ロシアに侵攻されたウクライナの住民の多くがポーランドに避難するのは、昔からの馴染みがあるからでしょう。
その頃、ロシアの地にはモスクワ大公国が成立しました。後のロシア帝国です。
ロシアでは、キエフ大公国(ルーシ)からロシアとベラルーシとウクライナが生まれたとされているため、ロシア人とベラルーシ人とウクライナ人は同じ民族だとされています。そこで本来は一つの国家であるべきだと考えたのがプーチン大統領です。
彼は2021年に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と名づけた論文を発表して、軍事侵攻を正当化しようとしました。
一方、ロシアの祖先はモスクワ公国、ベラルーシの祖先はポロツク公国であり、キエフ大公国を祖先とするウクライナとは別の民族であるという考え方もあります。
このような認識の違いが、今回の戦争の背景にあります。
また、ソビエト連邦として同胞であったウクライナが、当時の敵であるNATOに加盟しようとするのをロシアが許せないという理屈もあるでしょう。
いずれにせよ、戦争の犠牲者が一人でも少なくなることを祈ります。
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