バンクシーによる名画のパロディ
~ゴッホの《ひまわり》が枯れてしまった?
バンクシーの勢いが止まりません。
2021年11月9日、ニューヨーク・クリスティーズのオークションでバンクシー《ガソリンスタンドのひまわり》が手数料込み約16億円で落札されました。
これは10月に落札された《愛はごみ箱の中に》の約29億円、3月に落札された《ゲームチェンジャー》の約25億円に次いで、バンクシー作品歴代3位の高価格になります。この3つの記録はすべて2021年に生まれました。
今回落札された《ガソリンスタンドのひまわり》は、ゴッホ《ひまわり》のパロディ作品でした。バンクシーは世間の耳目を集めるために、パロディを多用する作家です。ほかにはどのような作品があるか見ていきましょう。
バンクシーvs.ゴッホ
《ひまわり》はフィンセント・ファン・ゴッホの代表作です。
35歳のときに南フランスのアルルに移住したゴッホは、この地に画家の共同体を作ろうと考えて黄色い家を借ります。その部屋の壁を花の絵で飾りたいと思ったゴッホが描いたのが7枚の《ひまわり》です。
その内の1枚は1987年、バブル景気の真っただ中にあった日本の安田火災海上(現・損害保険ジャパン)が手数料込み約58億円で落札し、当時の絵画史上最高価格だと騒がれました。
このゴッホ《ひまわり》を引用したバンクシー《ガソリンスタンドのひまわり》は、花がすべて枯れた状態で描かれています。
花が枯れたのは、おそらく自動車の排気ガスなどによる大気汚染が原因で、タイトル《ガソリンスタンドのひまわり》には、環境汚染を気にしない人々への批判が込められています。
とはいえ、タイトルを知らなければ、ゴッホなどの昔の偉大な画家に対する挑戦状だろうと読み解くこともできます。
ゴッホには及ばなかったとはいえ、16億円で落札されたバンクシーのひまわり――あなたならどのように鑑賞しますか?
ゴッホ《ひまわり》1888(ナショナル・ギャラリー、ロンドン)
バンクシー《ガソリンスタンドのひまわり》2005(約16億円で落札、2021年)
バンクシーvs.モネ
バンクシーのひまわりが落札された1年前にロンドン・サザビーズで落札されたバンクシー作品が《モネを見せてくれ》です。落札価格は約10億円で、これはバンクシー作品の歴代5位にあたる金額です。
《モネを見せてくれ》は、タイトルにもあるように印象派の画家クロード・モネのパロディ作品でした。
モネの代表作である《睡蓮》の池の中に、不法投棄されたと見られるゴミを浮かべて、環境破壊に対する警鐘を鳴らしたものです。
睡蓮の池に浮かぶ廃棄物は、ショッピングカートやカラーコーンなど、現代の消費社会を暗示させるもので、いかにもバンクシーらしい風刺に満ちた作品です。
このようにバンクシーには環境問題をとりあげた作品が多く、正体不明ではありますが、21世紀という時代の影響を受けた若手作家という気がします。一説には1974年生まれと言われているので、いま40台後半で画家としてはまだまだ若手です。
ゴッホ《ひまわり》と同じく、モネ《睡蓮》にも数多くの絵がありますが、バンクシーが描いた構図に最も近いのはアメリカのプリンストン大学美術館所蔵の《睡蓮》だと思います。
モネ《睡蓮》1926(プリンストン大学美術館)
バンクシー≪モネを見せてくれ≫2005(約10億円で落札、2020年)
バンクシーvs.ベラスケス
近年に落札された作品を見ていると、バンクシーの活動家(アクティヴィスト)としての側面が強く出ていますが、かつてのバンクシーのイメージは世間に対して挑発を繰り返すやんちゃないたずらっ子でした。
マネが「画家の中の画家」と呼んで尊敬したディエゴ・ベラスケスはスペイン最大の巨匠ですが、そのベラスケスもバンクシーの手にかかれば、からかいの対象になります。
ベラスケス《鏡のヴィーナス》は、ベッドに横になって、キューピッドが持つ鏡を見ている女神ヴィーナスを描いた官能的な絵画です。
ヴィーナスはもちろんヌードですが、画面の奥にある鏡のほうを向いているため、後ろ姿しか見えず、品位を保っています。鏡に映るのはヴィーナスの顔ですが、ぼんやりとしか見えないため、鑑賞者の想像力を働かせます。カトリック教会の力が強く、裸婦画が禁じられていた当時のスペインの事情をしのばせる作品です。
この美しいヌード画に対して、バンクシーは「美女なんて作られるものだ」とばかりに、攻撃を仕掛けます。バンクシー《手術後のヴィーナス》では、鏡に写ったヴィーナスの顔に整形手術の後がくっきりと残っていて、現代の美が人工的なものであることを暴露します。
ヴィーナスががりがりに痩せているのも、ダイエットに励む現代の美女を揶揄しているかのようです。
ベラスケス《鏡のヴィーナス》(ナショナル・ギャラリー、ロンドン)
バンクシー《手術後のヴィーナス》2006(約2200万円で落札、2013年)
バンクシーvs.ドガ
バンクシーはしばしば、古い名画の中に現代にしかありえないものを挿入することで驚きを生み出します。
≪モネを見せてくれ≫の中に描かれたショッピングカートやカラーコーン、《手術後のヴィーナス》に描かれた鼻の整形手術などは、元の絵が描かれた当時には存在しなかったもので、鑑賞者の注意を引き付ける異化効果を生み出しています。
中でも最たるものは、ドガ《ル・ペレティエ通りのオペラ座のホール》のパロディ作品です。ドガはバレエ少女を描いた絵を数多く残しました。《ル・ペレティエ通りのオペラ座のホール》も、バレエを練習する少女たちとそれを見るおじさま方を描いた一枚です。
バンクシーは、この絵の中のおじさま方の中に、現代イギリスの音楽プロデューサーであるサイモン・コーウェルを描き加えました。サイモン・コーウェルは、オーディション番組『アメリカン・アイドル』、『The X Factor』、『ブリテンズ・ゴット・タレント』などの審査員として知られるタレントです。
オーディション参加者が一生懸命歌ったり踊ったりするのを、しかめつらで眺めて辛辣なコメントをする芸風で人気のサイモンを描いたことで、ドガのバレエ風景があっというまに、現代のテレビのオーディション番組に変わりました。
ドガ《ル・ペレティエ通りのオペラ座のホール》1872(オルセー美術館、パリ)
バンクシー《ドガのバレエを見るサイモン・コーウェル》2010
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