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印象派モネの子どもたち
~実子は2人だけど子だくさんの不思議

画家の私生活はさまざまで、ゴッホやドガのように一生独身で過ごす人もいれば、ピカソや藤田嗣治のように同棲や結婚を繰り返す人もいます。
また、結婚はしていてもダリやユトリロやビュッフェのように子孫を残さない人もいるし、アンディ・ウォーホルやキース・ヘリングのように、同性愛者で子どもを作らなかった人もいます。
今回は、印象派のモネの子孫を調べてみました。

 

モネの2人の妻の微妙な関係

モネ《死の床のカミーユ》1879年

クロード・モネの家庭生活はいつも論争の的になっています。
モネには先妻カミーユ・ドンシューと後妻アリス・オシュデの2人の妻がいて、この2人がモネと共に3人で共同生活を送っていた時期があるからです。
正確にいえば3人ではなく、モネとカミーユとの間の子ども2人と、アリスの連れ子6人とを合わせた合計11人で一緒に暮らしていたのです。
なぜそんなことになったのでしょうか。
当時、モネの正式な妻はカミーユでした。そしてアリスはと言えば、モネのパトロンだったエルネスト・オシュデの奥様でした。アリスの連れ子の6人は、エルネストとの間にできた子どもたちです。
さて、エルネストは画家のパトロンになれるくらいでしたから、裕福な実業家でした。しかし、実業家はしばしばリスクをとりすぎて失敗します。1877年にエルネストは破産して、妻子を親しかったモネの家に預けて、単身パリで再起をはかることになりました。
モネは経済的に困窮していた頃にエルネストにたいへん世話になり、エルネストの家に住まわせてもらってアリスに世話になった時期がありますから、今度は自分が恩を返す番だと、アリスと6人の子どもたちを預かることを承知します。
実際、モネ家とエルネスト家は大変親しくしていたので、郊外にあるつつましいモネの家で、11人がうまくやっていくことには何の問題もありませんでした。
また、モネの家では愛妻カミーユが癌で闘病中なおかつ第二子を妊娠中だったので、アリスという主婦が家に入ってくれるのはたいへん助かることでした。年長のアリスの子どもたちも、まだ小さいモネの子どもたちの面倒を見てくれました。
アリスが家に来てから2年後の1879年、モネの妻カミーユは病気で亡くなります。モネはその死を悲しみ、死の床のカミーユの姿を描きました。

 

残されたモネとアリスと子どもたちは、そのまま一緒に暮らすことになりました。
やがてモネとアリスとの間には愛情が芽生え、モネが旅先からアリスに送った恋文が今も残っています。
しかし、アリスはモネの求婚を受け入れませんでした。なぜならば、彼女はまだ正式にはエルネストの妻だったからです。
一方、エルネストはアリスをパリに呼び寄せようとしましたが、アリスはその誘いにも応じませんでした。すでにモネとの仲が深くなっていたからです。
こうして、妻をなくした寡夫のモネと、人妻であるアリスとの奇妙な同居生活は10年以上も続きました。
1891年にエルネストが死去すると、翌年にモネとアリスは正式に結婚しました。モネは51歳、アリスは48歳になっていました。

長男ジャンは早くに亡くなる

モネ≪ジャン・モネの肖像≫1880年

モネとアリスとの間に子どもはできなかったので、モネの血を引く正式な子孫は、カミーユとの間にできた長男ジャンと次男ミシェルの二人になります。二人の間には11歳の年齢差がありました。
モネの長男のジャン・モネは、なんとアリスの連れ子であるブランシュ・オシュデと結婚しました。ですからブランシュは、二重の意味でモネの義理の娘にあたります。
ブランシュは絵を描くことが好きで、モネにとっては絵の生徒でもありました。若い頃のブランシュは女性画家として知られています。
モネの家で同居するようになったときブランシュは11歳で、ジャンは9歳でした。ですからジャンにとってブランシュは姉さん女房にあたります。結婚したのはジャンが29歳、ブランシュが31歳のときでした。
ところが、ジャンは46歳の若さで亡くなってしまいます。1914年のことです。その3年前の1911年には、母親のアリスが67歳で亡くなっていました。
子どものいなかったブランシュは72歳になった義父のモネのもとに戻り、モネが亡くなるまで14年間にわたって絵を描く手伝いと、身の回りの世話をしました。

次男ミシェルは趣味に生き

モネ≪ミシェル・モネの肖像≫1880年

モネの次男のミシェル・モネも、女性画家のガブリエル・ボナヴェンチュールと結婚しました。しかし彼の興味は絵よりも車に向けられました。ミシェルはその大半の期間をアフリカで過ごし、車のレースに熱中しました。
モネが1926年に86歳で亡くなったとき、48歳のミシェルはジヴェルニーの家と財産の大半を受け継ぎましたが、その管理は兄嫁のブランシュに任せました。
ブランシュが1947年に82歳で亡くなった後も、ミシェルはジヴェルニーには戻らず、大画家の家を放置しました。こうしてジヴェルニーの家も庭も往時の姿を失いました。
その後、ミシェルの妻ガブリエルが1964年に死去して、2年後の1966年にミシェル自身も87歳で亡くなりました。ノルマンディーにある妻の墓まで自動車で行った帰りにトラックと衝突事故を起こしたのです。
残されたモネの膨大なコレクションは、ミシェルの遺言に従いパリのマルモッタン美術館に寄贈されました。モネのコレクションが美術館の所蔵作品を一変させたため、以降はマルモッタン・モネ美術館と呼ばれるようになりました。
ミシェルの死後、荒れ果てたジヴェルニーのモネの家と庭は、クロード・モネ財団によって大改修され、1980年からはモネの記念ミュージアムとして一般公開されるようになりました。
ミシェルと妻との間にも子どもがなく、モネの遺伝子を受け継ぐ子孫は途絶えたと思われていましたが、一説によると、ミシェルには結婚前に生まれた娘ローランド・ヴェルネージュがいたそうです。2008年に亡くなった彼女は、モネ家とはまったくの他人として育ちましたが、ミシェルからモネのコレクションの一部を受け継いでいたと言われています(この話の真偽は定かではありません)。

現代に生きるモネの子孫

実は、モネとアリスとの関係は、先妻カミーユの存命中からのもので、アリスの6番目の子どもであるジャン=ピエール・オシュデはモネの息子ではないかとの説があります。真偽は不明ですが、そうなるとモネの遺伝子は現代まで残っているかもしれません。
ちなみにアリスの連れ子としてモネの義理の息子・娘になったオシュデ家の子どもたちの子孫には美術史家のフィリップ・ピゲがいます。血のつながりはありませんが、モネの曾孫に当たるそうです。
現在、箱根のポーラ美術館では展覧会「モネ―光のなかに」を開催しています。ポーラ美術館が誇る19点のモネ作品のコレクションを、建築家・中山英之さんが空間構成を手掛けた会場で展示するものです。2022年3月30日までの開催なので機会があればご覧ください。

左から、立っているモネ、アリス、地面に座るミシェル・モネ、
ジャン=ピエール・オシュデ、ブランシュ・オシュデ、ジャン・モネ、
立っているジャック・オシュデ、マルト・オシュデ、ジェルメール・オシュデ、シュザンヌ・オシュデ

 

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