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映画『アートのお値段』で知る現代アート
~ジョージ・コンドが語るバスキア

前回はこちら)
ドキュメンタリー映画『アートのお値段』は、高騰する現代アート作品の裏側に光を当てます。
たとえば、日本ではオークションなどの二次市場で、いくら高値で売却されても、その利益はアーティストには入りません(EUの場合は取引額の数パーセントがアーティストに支払われます)。
また、ニュースなどで話題になり高額で売買されるアーティストはごく一部で、ほとんどの作家は誰にも知られず、作品も売れないのです。
たとえば、あなたはジョージ・コンドの名前を知っていますか?

 

生きているうちは売れない?

カニエ・ウェスト
『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』
2010(ジョージ・コンド)
オリジナルバージョン

1957年生まれのジョージ・コンドは、映画の中で制作風景を公開してくれたアーティストの一人です。
大学で美術と音楽の両方を学んだコンドは、美術業界で働きながら音楽のバンドにもいくつも参加するなど、ニューヨークのカルチャーシーンにつかって生きてきました。
アンディ・ウォーホルのファクトリーでシルクスクリーンを制作していたこともあったそうです。

ジョージ・コンドはキース・ヘリングやジャン=ミシェル・バスキアと同世代で、彼らの親しい友人でもありました。
バスキアが27歳で薬物の過剰摂取で亡くなる直前、コンドに対して「もう誰もおれの絵を展示してくれない」と弱音を吐いていたそうです。
現在の時点から振り返ると、バスキアは常に人気があったかのように見えますが、注目されてデビューして、一時の流行が去った後のバスキアは、「過去の人」として、人気が落ちていました。
キース・ヘリングも同じような悩みを抱いていました。

ジョージ・コンドはアート作品の価格のつけられ方に疑問を抱いています。
「今、バスキアの作品がオークションで5000万ドルだって騒いでいるが、もしバスキアが生きていたらそんな値段はつかない」
女性アーティストのマリリン・ミンターも笑いながらこう言います。
「私はずっと貧乏だった。女性は高齢になるか死んでないと作品が売れない」
1987年にウォーホルが、88年にバスキアが、90年にヘリングが次々と世を去った後も、ジョージ・コンドは生きて絵を描き続けました。

カニエ・ウェスト
『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』
2010(ジョージ・コンド)
差し替えバージョン

日本での知名度はさほど高くありませんが、コンドの作品は作家のウィリアム・バロウズ、哲学者のフェリックス・ガタリ、詩人のアレン・ギンズバーグなど玄人筋に高く評価されています。
2010年には、現代アート好きのヒップホップミュージシャン、カニエ・ウェストのアルバムカバーも手がけました。村上隆、カウズに続くコラボレーションアーティストとしてカニエ・ウェストが選んだのがジョージ・コンドでした。

コンドがジャケットデザインを手掛けたアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は2012年のグラミー賞でベスト・ラップ・アルバムに輝きました。
しかし、両腕の代わりに大きな翼を持つ裸の女性(神話のフェニックス)がカニエ・ウェストの膝にまたがるジョージ・コンドのイラストは、刺激が強すぎるとしてデジタルストアではモザイクをかけられ、差し替えバージョンが作られました。
このあたりが、ジョージ・コンドがアメリカ国外で知名度が低い理由なのかもしれません。

アートプライスによればコンドは、コロナ危機下において価格が最も上昇しているアーティストです。
コロナ下におけるアメリカの現代アーティストのオークション売上は、ジェフ・クーンズが1100万ドル、リチャード・プリンスが960万ドル、クリストファー・ウールが700万ドルであるのに対し、ジョージ・コンドは2120万ドルとトップでした。いよいよ彼の時代が到来したのかもしれません。

死後に評価が高まったバスキア

出典:artprice.com「Contemporary Art,
beyond Europe and the United States」

すでに亡くなっているバスキアの作品は、2000年から2017年までの18年間に価格がおよそ19倍も上昇しました。
アートプライスによれば、2019年に最もよく売れた現代アーティストのベスト4は、バスキア、ジェフ・クーンズ、カウズ、奈良美智でした。
また、2020年のベスト4は、バスキア、奈良美智、バンクシー、ジョージ・コンドでした。
どちらにもバスキアと奈良美智が入っています。
バスキアとクーンズは10年前からよく売れていましたが、近年のカウズ、奈良美智、バンクシー、そして直近のジョージ・コンドの売上高の成長には、目を見張るものがあります。

もっとも、バスキアが年間で64点しかオークションに出品されていないのに対して、カウズは800点以上、奈良美智は400点以上も出品されていますから、1点あたりの単価でいえば、まだかなりバスキアのほうが高いです。

2021年5月11日にも、バスキアの絵画≪イン・ディス・ケース(In this Case)≫が、バスキア史上2位の9310万ドル(約100億円)で高額落札されたことがニュースになりました。
ちなみに歴代1位は、ZOZOの創業者である前澤友作さんが落札した≪無題≫の作品で、1億1050万ドル(約120億円)です。
奈良美智作品の最高価格は約27億円、バンクシー作品の最高価格は約25億円、カウズ作品の最高価格は約16億円ですから、相場にはまだまだ差があります。
バスキアは、2021年の最初の5か月間に世界で最も売れた現代アーティストであり、そのオークション売上は合計で2億5600万ドルにのぼりました。

『アートのお値段』によれば、アート作品の価格が高騰する理由には、新興国の富裕層が資産を隠したり、資金洗浄に利用したりするために現代アートを買い漁っているからとの説もあるそうです。
『アートのお値段』は、アート作品の高価格には理由があると教えてくれる良いドキュメンタリーでした。
いま最も勢いのある若手女性アーティストとして、ナイジェリア出身のジデカ・アクーニーリ・クロスビー(njideka akunyili crosby)も出演しています。
映画には出てきていませんが、翠波画廊では、ジデカと同じアフリカ出身の黒人アーティスト、セネガル出身のドウツをおすすめしています。

 

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