画廊オーナーが語る 良いコレクション、悪いコレクション
美術品は、値上がりも期待できますが、それを目的に集め始めると、おうおうに
して期待を裏切られるものです。
というのも、単純に価格だけを見れば、株と同じく、値上がりするものもあれば、値下がりするものもあるからです。
また、その時点での絵画を取り巻く経済状況によっても影響を受けます。
そのため、美術品のプロフェッショナルである画商といえども、
10年後、20年後に何が値上がりしているかを確実に見抜くことはできません。
では、一体どのような作品を集めることが、良いコレクションを作る道なのでしょうか。
コレクションは持ち主の人柄を表す?
私は、美術コレクションを見れば、持ち主の人柄がわかると思っています。
うちのお店のお客様の中には、代々続く資産家の方もいらっしゃいます。そして、先代や先々代が集められた美術品、掛け軸や日本画、陶器などを、今の代の方が、売却したいとご相談に見えることが時々あります。
そんなご相談を受けて、お亡くなりになった方が体系的に収集されたコレクションを見せていただいた時、
それを収集された方の人柄がしのばれます。
たとえば、とある一人の作家を中心としたコレクションだったりすると、持ち主の偏愛と愛情の深さに、その方の
知性と強い意志をも感じます。
あるいは、学術的に評価の高い作品ばかりを収集されていた方の場合には、その方の美術史に対する造詣の深さやこだわりに感心することもあります。
良いコレクションとは、それを集められた方の作り手に対する深い理解と愛情、また、
その方の人間性や知性があらわれるものだと思います。
反対に、悪いコレクションとは、どのような経緯で購入に至ったのかわかりませんが、
名前こそ有名な作家の作品ばかりなのに、格安の二級品ばかりのものだと思います。
そのようなコレクションを見ると、作家の名前と作品の価格はわかるけど、
その作品の価値までは見抜けなかったのかなと、残念に感じてしまうこともあります。
金の斧、銀の斧、それとも自分の斧?
そんな時、私はイソップ童話の「金の斧」を思い出します。
ある木こりが、川にうっかり斧を落として嘆いていると、神様が現れて川の底から金の斧と銀の斧を拾ってきてくれます。
しかし、正直な木こりは「それじゃ自分の斧ではない」と答えたので、称賛されて、自分の斧のほかに金と銀の斧も与えられます。
それを知った別の木こりは、金の斧を自分のものだと答えたために、不正直さを咎められて、何ももらえませんでした。
自分の心に素直になって、自分が本当に好きで良いと思う美術品だけを集めた場合、最終的にその収集品は「金や銀」の価値のある体系的なコレクションになります。
しかし、外部の情報に惑わされて、有名な作家の作品や値上がりするといわれた作品ばかりを集めていると、本来最も重視しなければいけない芸術的価値を見落としてしまい、最終的に本人の思惑とは違った価値の低いものになってしまいます。
だとするならば、不確実な情報に振り回されるより、本当に自分の好きな作品を買う
ほうがいいのではないでしょうか。
無垢な心で買い求めたものこそが、その人にとっての「本物」であり、本当に価値があるものとなります。
自分の心に留まる作品を選ぶことが、オリジナルの価値のあるコレクションを作る道なのです。
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