存命芸術家のオークション落札記録その1【2020年】
~ジェフ・クーンズかゲルハルト・リヒターか
≪サルバトール・ムンディ≫
2020年現在、世界で最も高額な絵画といえば、イタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチによる《Salvator Mundi 》(救世主)で約4億5030万ドルです。
しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、今から500年以上も昔に亡くなった画家です。古いものだから価値があるというわけではありませんが、歴史の重みが作品に希少性と高価格を与えていることは否めません。では、現在もなお存命で作品を制作しているアーティストの場合、どれくらいの価格で取引されているのでしょうか。
今回は、オークション落札記録から存命芸術家の作品の価値に迫ってみます。
80年代のスター、サルバドール・ダリ
存命芸術家の最高落札額の歴史をたどると、その時代の人気画家が見えてきます。
たとえば、1982年に存命芸術家の最高落札額記録を更新したのは、スペインのサルバドール・ダリでした。
80年代のダリはファインアートの画家であるのに、一般的な知名度も高いセレブとして、別格の人気を誇っていました。
落札された作品は《L’Enigme du Desir/Ma Mere, Ma Mere, Ma Mere》(欲望の謎/母よ、母よ、母よ)というタイトルで、価格は約81万ドルでした。
これ以前の記録も、やはりサルバドール・ダリの《Le Sommeil》(眠り)でした。
90年代に君臨したジャスパー・ジョーンズ
やがてダリの時代は終わり、アメリカの現代アーティストの作品が人気となります。
たとえば、1980年にアメリカのホイットニー美術館が、ジャスパー・ジョーンズの《Three Flags》を100万ドルで購入しています。これはオークションではありませんが、存命画家の作品の最高取引価格として長らく記録に残り続けてきました。
そして1986年、同じくジャスパー・ジョーンズが《Out the Window》で存命芸術家の最高落札額記録を更新します。価格は約363万ドルと、大幅に上昇しました。
翌1987年には、ウィレム・デ・クーニングの《Pink Lady》が同じく約363万ドルで落札されて、わずかながら記録を更新しました。
二人の人気画家の熾烈な争いを最終的に制したのは、ジャスパー・ジョーンズでした。
1988年にジョーンズの《Diver》が約418万ドルで落札されて、存命芸術家の最高落札記録は、名実ともにジャスパー・ジョーンズのものとなりました。
さらに同年に《White Flag》が約700万ドルで落札されて、人気アーティストの地位を不動のものとします。
話はそれで終わりませんでした。
その翌日にオークションに出品されたジョーンズの《False Start》は、何と約1700万ドルという桁違いの価格で落札されたのです。
この1989年はダリが亡くなった年でもあり、ダリよりも26歳年下のジョーンズが、世代交代を決定的なものとしました。
1980年代後半の美術オークションは、まさにジャスパー・ジョーンズの時代でした。
イギリスやアメリカの若いアーティストの台頭
2011年(ダミアン・ハーストによるアルバムジャケット)
しかし、諸行無常の世の中、いつしかジャスパー・ジョーンズを超える者が現れます。
2020年現在も90歳で現役のジョーンズですが、もはや存命芸術家の最高落札額記録を争う立場にはありません。相変わらず人気画家ではありますが、流行の中心はもっと若いアーティストに移りました。
2007年、ジョーンズに代わって19年ぶりに記録を更新したのは、ジョーンズよりも35歳年下のダミアン・ハーストでした。作品名は《Lullaby Spring》で、価格は約1930万ドル。
この作品は3メートルの幅を持つ鉄製の棚に6136個のカラフルなピル(薬剤)を配置したもので、カタール首長のハマド・ビン・ハリーファ・アール=サーニーが購入しました。アラブの石油王の財力は途方もないですね。
2013年(ジェフ・クーンズによるアルバムジャケット)
イギリスのダミアン・ハーストの記録は、その年のうちにアメリカのアーティストによって破られます。
2007年、ハーストよりも10歳年上のジェフ・クーンズの作品《Hanging Heart (Magenta/Gold)》が約2360万ドルで落札されたからです。
天井から吊り下げられたピカピカと光るメタリックなハート形の彫刻は、いかにもジェフ・クーンズらしいキッチュな作品です。
ただし競り落としたのがクーンズと契約するガゴシアン・ギャラリーなので、ジェフ・クーンズの格を上げるためにがんばったのかもしれません。
翌2008年、記録は再び更新されます。
今回、存命画家による作品の最高価格を叩きだしたのは、イギリスのルシアン・フロイドの《Benefits Supervisor Sleepng》でした。この作品はソファで眠る巨漢の裸婦を描いたもので、モデルとなったスー・テイリーは体重が160kgもあったそうです。
ルシアン・フロイドは、『夢分析』で有名な精神分析医ジークムント・フロイトの孫で、いわゆる現代アートではなくポートレイトなどの具象絵画を描きましたが、その絵はぬぐいきれない不安や恐怖を宿していることが多く、近代絵画とは一線を画しています。
落札価格は約3360万ドルで、購入したのはロシアの石油王ロマン・アブラモヴィッチでした。
生ける伝説、ゲルハルト・リヒター
しばらく間をおいて、次に現れた存命画家のスターがドイツのゲルハルト・リヒターです。
彼の抽象絵画作品《Abstraktes Bild (809-4)》(抽象画)は、2012年に約3420万ドルで落札されて、4年ぶりに記録を塗り替えました。
この絵画をオークションで売却したのは、熱心なアートコレクターとして知られるミュージシャンのエリック・クラプトンでした。
ここからしばらくリヒターの時代が続きます。
続いて、2013年にはリヒター《Domplatz, Mailand》(ミラノ大聖堂広場)が約3710万ドルで落札されて、再び記録を更新します。
この絵画はリヒターの昔の具象絵画で、シカゴのパーク・ハイアット・ホテルに10年以上飾られていたものです。
ジャスパー・ジョーンズと同世代のゲルハルト・リヒターは、現在、世界で最も重要な現代アーティストと目されています。
2018年には、存命画家であるにもかかわらず、リヒターの半生を基にした映画『ある画家の数奇な運命』がドイツで制作され、アメリカのアカデミー外国語映画賞にノミネートされました。日本でも2020年10月から劇場公開されています。
リヒターの作品のこれまでの落札総額は優に10億ドルを超えていて、日本での人気も高まっています。
2011年にドイツで製作されたドキュメンタリー映画『ゲルハルト・リヒター ペインティング』も、遅ればせながら2020年1月に日本版DVDが発売されました。
2020年10月には、サザビーズ香港で箱根のポーラ美術館がリヒターの《Abstraktes Bild (649-2)》を約30億円で落札しました。この金額は、アジアでのオークションにおける欧米作家作品の過去最高落札額になります。
(存命芸術家のオークション落札記録 その2に続く)
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