バンクシーが描いたモネの睡蓮
~バンクシー史上2位の高額落札に
2020年10月21日、ロンドンのサザビーズにバンクシーの油彩作品が出品され、競売にかけられました。
そのモチーフはなんと、印象派の巨匠モネの≪睡蓮の池≫。
2005年に発表されたもので、作品タイトルは≪モネを見せてくれ≫(Show me the Monet)。ギャング映画で違法物の取引時に使われる台詞「カネを見せてくれ」(Show me the Money)とかけています。
オークション会社による落札予想価格は300万~500万ポンド(約4億~6億7000万円)でしたが、はたしていくらで落札されたのでしょうか?
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値上がりを続けるバンクシー作品
バンクシー≪モネを見せてくれ≫の落札価格は、手数料込みで755万ポンド(約10億円)でした。
バンクシー作品の落札額としては史上2位の記録です。
出品者は2年前にこの作品を購入したそうですが、そのときの価格は1万5000ポンド(250万円)でした。
たったの2年間で、金額が500倍になったのです。
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過去のバンクシーの最高価格は、1年前の2019年10月3日に、やはりロンドンのサザビーズで落札された油絵≪退化した議会≫(Devolved Parliament)でした。
2009年に発表された、横4メートル、縦2.5メートルのこの巨大なバンクシーの絵画の落札価格は、なんと990万ポンド(約13億円)でした。
事前予想価格は150~200万ポンド(約2億~2億7000万円)でしたが、予想の6倍にまで値上がりしたのです。
≪退化した議会≫が、それまでのバンクシー作品の落札記録を大幅に更新してから後、ここ1年のバンクシー作品の価格の高騰は異常なほどで、毎回のように予想価格の倍になりますし、バンクシー作品の落札記録の2位が次々と更新されています。
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たとえば2020年7月28日のロンドンのサザビーズでは、海を越えてヨーロッパに来る難民をモチーフにした3枚組の油絵≪2017年の地中海の景色≫(Mediterranean Sea View 2017)が約3億円で落札され、≪退化した議会≫に次ぐ2位の記録となりました。
ちなみに、この作品の出品者はバンクシー本人なので、手数料を除いた残額はバンクシーの収入になります。
その後、2020年10月6日に香港のサザビーズ≪不法侵入をお許しください≫(Forgive Us Our Trespassing)が640万ポンド(約9億円)で落札され、2位の記録を更新しました。
これは、子供にアートに親しんでもらうプロジェクトで、100名の小学生とともに作ったもので、縦6.55メートル、横4.21メートルと、バンクシー作品の中では最大級です。
ところが2週間後の10月21日には、今回の≪モネを見せてくれ≫(Show me the Monet)が、またまた落札記録の2位を更新しました。
今のバンクシーは、まさに「カネを見せてくれ」(Show me the Money)状態です。
2019年10月にバンクシー本人が期間限定でオープンした公式オンラインショップにて500ポンド(約7万円)で販売されたシルクスクリーン版画≪バンクスキア≫(Banksquiat)が、2020年8月のオークションでは11万8750ポンド(約1662万円)で落札されたという情報もあります。こちらは1年も経たないうちに価格が約240倍になるという異常さです。
バンクシー≪バンクスキア≫は、モネではなくバスキアのパロディです。7万円の版画なら買っておけば良かったと思った方も多いでしょう。
バンクシー作品の価格高騰はいつまで続くのでしょうか?
バンクシーだけじゃなく、モネも値上がり?
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今回、落札されたバンクシー≪モネを見せてくれ≫は、モネの≪睡蓮の池≫の絵を模写したものに、不法投棄されたと思われるショッピングカートと三角コーンを描き加えて、環境破壊への警鐘を鳴らすものでした。 紛争の続くイスラエルとパレスチナとの間の分離壁に描かれた、風船につかまって壁を乗り越えていく少女など、バンクシーは政治的な風刺画を数多くものしています。
先日は地中海の難民救助船に出資して、その船体に救命胴衣を身に付けて浮き輪に手を伸ばす少女を描くなど、バンクシーは人権活動家としても有名になりつつあります。
ちなみに、今回のバンクシー作品の元の絵を描いたモネも、近年、価格が上がっている画家です。
2019年の世界アートマーケット市場の売上高では、モネはピカソに次ぐ堂々の2位となっていました。
落札最高価格は2019年5月14日のニューヨークのサザビーズの≪積みわら≫で、価格は貫禄の1億1070万ドル(約121億円)です。
モネの「睡蓮の池」はどこにある?
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今回、バンクシーの≪モネを見せてくれ≫の元になったモネの≪睡蓮の池≫とは、どのような絵なのでしょうか。
若い頃、パリ郊外のセーヌ川沿いを渡り歩いたモネは、43歳になった1883年から、終の棲家となるジヴェルニーに居を構えます。
50歳になった1890年には、それまでは借りていた家を購入し、さらに3年後には土地を買い増して庭として、川から水を引き込んで池を造り、睡蓮を植えました。
睡蓮が根付いて大輪の花を咲かせるようになり、池畔にしだれ柳や藤が美しく垂れ下がるようになった1895年には、池の上に日本風の橋を造っています。
この頃からモネは、ジヴェルニーの庭の睡蓮の池の絵を多数制作するようになりました。
もともとモネは、同じモチーフの絵をたくさん描く画家です。
それは、モネが光の移り変わりを描くことにこだわっていたからです。
モネは、≪積み藁≫や≪ルーアン大聖堂≫などの風景を、朝、昼、晩、あるいは夏と冬などで変化する光や空模様などとともに描きました。
ですから、≪睡蓮の池≫の絵も数多く存在しています。
たとえば、最も初期に描かれた≪モネの庭の橋≫では、池の面に映る橋と庭木がメインで、睡蓮はあまり描かれていません。
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バンクシーはどの絵を見て描いた?
モネは≪睡蓮の池≫の絵を数多く描いていますが、バンクシーの≪モネを見せてくれ≫の元になっているのはいったいどの睡蓮の絵なのでしょうか。
まず候補に挙がるのは、バンクシーの活動するイギリスはロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵の≪睡蓮の池≫です。
この絵はイギリスで最も有名な≪睡蓮の池≫で、橋やしだれ柳の位置などの構図もぴったり一致します。
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しかし調べていくと、さらに構図の一致する絵が、なんと日本にありました。
箱根のポーラ美術館所蔵の≪睡蓮の池≫です。
こちらはナショナル・ギャラリー所蔵の≪睡蓮の池≫と同時期に同じ構図で描かれた連作の一つで、左側のしだれ柳のかたちや、橋を隠す茂みの大きさ、右下の池の面などが、バンクシーの≪モネを見せてくれ≫に酷似しています。
バンクシーが模写したのはこちらの方かもしれません。
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さらに翌年にモネは、構図をもう少し変えた絵を何点か描いています。
1900年の連作の一つは、モネの故国であるフランスのオルセー美術館に所蔵されています。
こうして比べてみると、個人的な感想ですが、ポーラ美術館所蔵の≪睡蓮の池≫が最も近いように思えます。
バンクシーもデサップもマティスもみんなモネが好き?
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ここまでに紹介したモネの≪睡蓮の池≫は、モネの自慢の日本風の橋をメインに描いたものばかりですが、橋を描かずに水面と睡蓮にフォーカスした絵もたくさんあります。
日本人に馴染みが深いのは、国立西洋美術館所蔵の絵でしょうか。
晩年のモネの粗い筆致ながら、水面に浮かぶ睡蓮の乱舞が見事にとらえられています。
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≪睡蓮の池≫は、モネの代表作として、バンクシーだけでなく、多くの画家にとって引用の対象となりました。
現代の印象派として知られるギィ・デサップも、ジヴェルニーに出かけて、自分なりの≪睡蓮≫を描いています。
モネとは異なり細かい筆致で、リアルな睡蓮の池をキャンバスに再現しています。
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現在、箱根のポーラ美術館では展覧会「モネとマティス もうひとつの楽園」を開催しています。2020年11月3日までの開催なので、バンクシー≪モネを見せてくれ≫の元になったかもしれないモネ≪睡蓮の池≫の現物を見たい方はご足労ください。
2020年10月16日発売の郵便切手の図柄に選ばれた、マティス≪リュート≫の現物も見ることができます。
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