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ストリートアートはポップアートの後継者?
~ジム・ダインからカウズへの系譜

カラフルな色彩で知られるポップアートですが、そればかりを特徴とするわけではありません。
初期のポップアートは、芸術運動として既成の概念や価値観に反対するものでした。
1950年代後半から60年代にかけて、アメリカで起きたネオダダ(新しいダダイズム)は、ポップアートのさきがけとして、堅苦しい「芸術」を破壊しようと試みました。
初期のポップアートの担い手は、ロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、ジム・ダインといったメンバーです。
当時のニューヨークに渡った日本人でいえば、草間彌生のハプニング、篠原有司男の反芸術、オノ・ヨーコのパフォーマンスなどが、前衛芸術としてのポップアートを象徴しています。
今回は、ポップアートのもう一つの側面に光を当ててみます。

 

実はイギリス生まれのポップアート

ポップアートはアメリカのものだと思われがちですが、最初にその言葉が登場したのは1956年のイギリスです。
第二次世界大戦後に、経済的に繁栄するアメリカで生み出された大衆文化や商業芸術などを指して、イギリスの批評家がポピュラーな(人気のある)アートという意味で「ポップアート」の言葉を使い始めました。
これを受けて、まだ30代で新進気鋭の画家だったリチャード・ハミルトンが、マッチョの男性やヌードの女性、電化製品などを使って、大衆の欲望を喚起する消費社会を表現したコラージュ作品≪いったい何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力的にしているのか≫を作り上げました。歴史上、最初のポップアート作品だと言われています。
この作品において男性が持つキャンディーにPOPと書かれていたことが、「ポップアート」の名称を一般に印象づけることになりました。

 

The Beatles『The Beatles』
1968年(ハミルトン)

リチャード・ハミルトンはその後、ポップミュージックの王様ともいえるビートルズのアルバムのジャケット・デザインも手がけました。
通称ホワイトアルバムと呼ばれる、白一色にビートルズの名前だけが配置された1968年のアルバムは、リチャード・ハミルトンとポール・マッカートニーが二人で考えたものです。
ポップアートの名称の生みの親が、当時のポップミュージックの王様ともいえるビートルズのアルバムに対して、あえてポップの対極とも言えるミニマルなデザインに挑戦したところに面白みがあります。


 

 

ネオダダ運動から始まったアメリカのポップアート

ポップアートが登場する以前のアメリカの現代美術の流行は、ジャクソン・ポロックやマーク・ロスコに代表される抽象表現主義でした。
抽象表現主義とは、誤解を恐れずに言えば、何を描いているかが、ただちには判然としない絵画です。 しかし、具象絵画の堅苦しさに対して自由を主張した抽象表現主義も、それが流行になってしまうと、抽象表現が新たな制約としてアーティストを拘束します。
抽象表現主義の生真面目さに対して反旗をひるがえしたのが、ロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズといったネオダダのメンバーです。
彼らは、美術の素材には相応しくないと思われていた日用品や既製品や廃棄物を利用することで、抽象表現主義の権威性を破壊していきました。
アンディ・ウォーホルや草間彌生はラウシェンバーグと同世代の1920年代後半生まれで、同じ空気を共有していました。

 

その後に続くのが、1930年代半ば生まれのジム・ダインやオノ・ヨーコです。
ジム・ダインが最初に注目されたのは、1962年にパサディナ美術館で開催された「New Painting of Common Objects」(日用品の新しい絵画)展でした。ここでウォーホルやリキテンスタインとともに並べられたジム・ダインの作品は、ネクタイや入れ歯といった日用品をシンプルな描線で描いたものでした。


 

Cream『Best Of Cream』
1969年(ジム・ダイン)

ジム・ダインは、ウォーホルやリキテンスタインとともにポップアートの旗手として注目されましたが、商業的な成功にはそれほどの興味が持てませんでした。そこで1967年からはロンドンに渡って自らの芸術を追求することにします。
イギリスでのジム・ダインの仕事の一つに、ロックバンドのクリームのベストアルバムのジャケット・デザインがあります。
クリームは1960年代後半のイギリスで、ビートルズにも匹敵する人気を誇ったロックバンドです。ギター、ベース、ドラムのスリーピースで鳴らすハードなサウンドが特徴で、ギタリストはその後ソロアーティストとして大成功するエリック・クラプトンでした。
一方、ジム・ダインが描いたジャケットは、ハードロックに似合わぬトマトや玉ねぎや茄子などの日常的な食材で、イギリスらしい乾いたユーモアが見られます。

 

 

ポップアートからストリートアートへ

Kanye West『808s & Heartbreak』
限定版2008年(カウズ)

2000年代に入ってからは、新たなポップアートとも言えるストリートアートが勃興してきました。
もともとストリートアートの中にはキース・ヘリングのようにポップアートの楽しさを取り入れた作品もあったのですが、その系譜を受け継ぐのが、今を時めく人気アーティストのカウズ(KAWS)です。
現代のポップアーティストともいえるカウズがジャケット・デザインを手掛けたのは、ヒップホップ・ミュージシャンのカニエ・ウェストの2008年のアルバム『808s & Heartbreak』です。

Kanye West『808s & Heartbreak』
通常版2008年

カニエ・ウェストは、前年の2007年のアルバム『グラデュエーション』では、日本の村上隆にジャケット・デザインを依頼したほど、現代アート好きで知られています。
このジャケットは一見、カウズらしくないかもしれませんが、赤い風船でつくられたハートを引き裂く2つの手には、カウズのキャラクターに特徴的な×の目が描かれています。
ちなみに、カウズのジャケットは限定盤のみで、通常版のジャケット・デザインは赤い風船のハートのみとなっています。
アルバム・ジャケットといえども希少価値を高めているところが、いかにも現代的です。

 

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