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エコール・ド・ニューヨークを知っていますか?
~ウィレム・デ・クーニングと仲間たち

『「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画』 (幻冬舎)では、史上最高額の絵画として、2011年に3億ドルで売買されたゴーギャンの絵画『いつ結婚するの?(Nafea Faa Ipoipo)』を取り上げました。
フランス近代絵画ではないために書籍では触れませんでしたが、実は、同じく3億ドルで売買された絵画が、もう一つあります。それが、ウィレム・デ・クーニングの『インターチェンジ(Interchange)』です。
2017年現在、最も高額とされる絵画を描いたデ・クーニングとは、いったいどのような画家だったのでしょうか。

 

「インターチェンジ(Interchange)」1955年 油彩

 

ウィレム・デ・クーニングは1904年に、オランダに生まれました。
同じ年には、スペインでサルバドール・ダリが誕生しています。
二人は、近代絵画が現代絵画へ変わろうとする過渡期の画家で、どちらも成功した画家に相応しい長寿でした。ダリの享年は84歳、デ・クーニングは92歳です。

 

デ・クーニングの生まれたオランダは、面積はそれほど大きくありませんが、大航海時代は、スペインやポルトガルと並ぶ経済大国でした。
そのため文化の発展も顕著で、17世紀にはレンブラントやフェルメールといった著名画家を輩出しています。
19世紀にも、オランダからはゴッホやモンドリアンが出ていますが、当時のオランダは経済においても文化においてもヨーロッパの中心とは言えず、ゴッホやモンドリアンはフランスで絵の修業をしました。
20世紀生まれのデ・クーニングは、フランスではなくアメリカに渡り、以降、亡くなるまでアメリカで活動しました。ですから、一般的にはアメリカの画家という印象が強いでしょう。

 

デ・クーニングがアメリカに来たのは22歳のときで、当初は商業美術で生計を立てていました。商業美術とは、広告看板などをクライアント(依頼主)の注文に応じて制作するものです。
5歳のとき両親が離婚し、母子家庭で育ったデ・クーニングは、12歳から職人デザイナー見習いとして働いていました。ですからアメリカに渡ったのも、芸術家としてではなく、職人として仕事を得るためでした。


しかし、ニューヨークで数多くの芸術家の卵と触れ合ううちに、デ・クーニングは自らの絵を描くようになります。
また、画家仲間の中には、デ・クーニングと同じくヨーロッパからの移民が少なくありませんでした。例えばアルメニア生まれのアーシル・ゴーキー、ロシア生まれのマーク・ロスコなどです。
そのほか、ジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマン、クリフォード・スティルなどのアメリカの画家とも知り合いになります。そうした人々の中に、1943年に結婚する画学生エレーヌもいました。
彼らはのちに、抽象表現主義の画家たちとして有名になります。

 

ちなみに、1950年代から60年代にかけて盛り上がった、ニューヨークの前衛芸術運動の作家たちを、ニューヨーク・スクールと呼びます。ここでいうスクールとは、学校という意味ではなく、学問や芸術の一派をさします。
エコール・ド・パリも、英語ではパリ・スクールですから、20世紀初頭にはフランスにパリ・スクール(パリ派)があり、20世紀半ばにはアメリカにニューヨーク・スクール(ニューヨーク派)があったことになります。
ニューヨーク・スクールは、画家ばかりでなく、音楽家や舞踏家や詩人なども含んだ集団を指しますが、絵画においては、抽象表現主義やアクションペインティングが特徴的でした。中でも、特に有名になったのが、ポロックとデ・クーニングの2人です。
このニューヨーク・スクールの活躍によって、美術の中心地がパリからニューヨークに移ったと見られるようになりました。
1957年に渡米した草間彌生も、ニューヨーク・スクールの一員です。

 

デ・クーニングは抽象表現主義の大家として知られていますが、最も有名な絵は具象画の連作になります。それが、1950年代から描き始めた、「女性(woman)」のシリーズです。

 

「女性Ⅲ(womanⅢ)」1953年 油彩

 

 

通常、男性画家が女性を描くと、美しさやセクシーさが強調されるものですが、デ・クーニングの描く女性は、荒々しく野蛮な姿をしています。そのため、男性にとっての女性の他者性を描いたものとして、高い評価を受けました。
中でも1953年に描いた『女性Ⅲ(womanⅢ)』は、2006年に1億3750万ドルで売買されたことで、特に有名になりました。
また、1955年に描かれた『ポリス・ガゼット(Police Gazette)』は、同じく2006年に6350万ドルという高値で売買されました。
ちなみに、デ・クーニングの作品の最高価格は、冒頭に書いたように、2015年に3億ドルで売買された『インターチェンジ(Interchange)』になります。この絵が1995年にオークションで落札された時の価格は2000万ドルでしたから、20年で価格が15倍になった計算です。

 

注目すべきは、この3枚の絵画の売主がすべて同一ということです。その人物の名前は、デヴィッド・ゲフィン。アサイラム・レコードやゲフィン・レコードを設立して大成功を収め、後には、映画監督スピルバーグ、元ディズニーCEOカッツェンバーグと共に、映画会社のドリームワークスSKG(3人の頭文字)を創設した、立志伝中の人物です。
コンテンポラリー・アートの熱心なコレクターであるゲフィンは、早い時期からポロック、デ・クーニング、ジャスパー・ジョーンズなどのアメリカの現代アートを収集し、後にそれを高値で売却して、利益を上げました。
2017年現在の、絵画の高額取引ベスト15を見ると、そのうち4つが、ゲフィンを売主としたものであることがわかります。なおかつ、そのうちの2つはデ・クーニングの絵画なのです。
ウィレム・デ・クーニングは1997年に亡くなりましたが、その作品は今もなお人気で、高額で取引されているのです。

 


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